NyoNyum120号特集:①知っていますか?スマートシティ
NyoNyum120号特集:①知っていますか?スマートシティ
2022.09.28

現在、カンボジア国内で配布中のカンボジア生活情報誌NyoNyum120号の特集のWeb版です。

「より住みやすい街を目指してーシェムリアップの今を歩こう!ー

シェムリアップ州は世界遺産アンコールワットを有し、カンボジアで最も観光が盛んな地域。しかしこの2年来、新型コロナの影響で観光業が大打撃を受け、まるでゴーストタウンのようになってしまった市内の様子が、日々SNS等で伝えられていました。

そんなシェムリアップは、コロナ前の2018年にプノンペン、バッタンバンとともに、日本政府が支援するASEANスマートシティ・ネットワークのパイロット都市として採択されました。また、シェムリァップ州政府は2020年11月30日より市内38本の道路整備事業を開始し、コロナ禍で町全体が静まり返っている中での工事に人々は驚きを見せましたが、13カ月ですべての工事が終了し、街は美しく生まれ変わりました。

そして今、コロナ禍を抜け出しニューノーマルの生活を目指すカンボジアには、少しずつ観光客やビジネス客が戻り始めています。待ち望んでいた観光産業の再稼働に期待が膨らむシェムリアップも、この38本の道路整備を皮切りに信号設備、街灯、歩道等の整備が進み、スマート化に向けて大きく踏み出そうとしているように思われます。

シェムリアップが目指すスマートシティとはどういう姿なのでしょうか。そして現地の人や事業者たちは、この新たな発展への取り組みをどのように感じ、何をしようとしているのでしょう?

 

知っていますか?スマートシティ

38道路整備事業により、歩道、街灯、点字ブロック、路面標示などが整備された(出典:シェムリァップ公共事業運輸局)

シェムリァップ州政府がコロナ禍においてインフラ整備を行ったのを知っているでしょうか?政府の予算1億5000万ドルがシェムリァップ市内38本の道路整備事業に投入されました。コロナ禍で観光客が激減し、経済活動が低迷しているときだからこそこれをチャンスと捉え、道路の幅員拡張や電線の地下埋設を実現しました。コロナ禍を抜け出し、交通問題、環境問題、治安問題などを、デジタル技術を駆使して管理するスマート化に拍車をかけようとしているシェムリァップで、その取り組みに共に携わる日本の機関・企業を紹介します。

 

日本のJICAも協力をスタート!

スマートシティ関連の各種データを収集する「データプラットフォーム」のイメージ(案)

プノンペン、バッタンバンとともにシェムリァップがASEAN 域内のグローバル開発を目指「ASEAN スマートシティ・ネットワーク(以下、ASCN)」のパイロット都市に2018年に採択されてから、州政府はJICA に支援を要請し、2020 年よりシェムリァップ市のスマート化に向けての指針となる「ロードマップ」作成のための調査に乗り出した。

州政府とJICA の調査団による1 年以上にわたる調査によって発表されたロードマップ案は、2035 年を目標年次としたスマートシティ実現に向け「SIEM REAP SMART」をビジョンに掲げ、運営面の開発プログラム(行政組織・推進体制、制度手続き・ビジネス支援、データマネジメント)とセクター別開発プログラム(スマート観光、スマートモビリティ、スマートセキュリティ& スマートセーフティ、スマート環境マネジメント)を柱としたものとなっている。

2022年5月キックオフ会議にてプロジェクトの概要説明( 池田さんは左から二番目)

2022 年5 月にJICA の技術協力プロジェクト「シェムリァップにおける都市課題解決のためのスマートシティアプローチ実装プロジェクト」の専門家として赴任した池田亮平専門家によると、上記のロードマップを受けてJICA は3 年間のプロジェクト期間中にシェムリァップ州政府のロードマップの最終化、実施運営能力強化、パイロットプロジェクトの施行に協力するとしている。一言で「スマート化」と言ってもさまざまな定義や考え方があるが、その基本の一つとなるのが「データ」である。情報を収集して課題を分析・解決し、それをもとに適切なサービスを提供して市民生活や民間活動を豊かにしていく。池田さんは「本プロジェクトではデータマネジメントの能力強化に初期から着手する予定です。とはいえ、カンボジアでは既存のデータが中央政府に集められており、かつ省庁の縦割り体制の中でどれだけ地方政府がそのデータを利用し、各省庁の地方局間で共有できるかが課題となると思っています」と話す。

一方で、スマートシティに関する情報発信、広報も重要な活動だという。州政府がスマートシティを目指すと明言したとはいえ、州政府職員、市民への周知も必要だ。そして具体的な活動や変化を常に国内外に発信し、ASCN はもとより域内・世界へ紹介しなければならない。特にシェムリァップは観光都市でもあり、観光をめぐる民間投資や旅行客がスマート化により安心してビジネスや旅行などの活動をすることができるということを伝える必要がある。

プロジェクト開始にあたる合意文書作成の際の関係者との写真(2021年12月のJICAスマートシティプロジェクトの合意文書に関する会議にて)

「Grab やPassApp などの配車アプリがある、電子マネーが使える、Wi-Fi 整備がされているということだけでもスマート化と言うことはできますが、スマートシティはさまざまなソフト・ハード技術が適切なマネジメントのもとで連携し、活用されることを目指します。日本では『柏の葉スマートシティ(千葉県柏市)』や『スマートシティ加古川(兵庫県加古川市)』がそれぞれに特色のあるスマートシティとして有名です。プロジェクトの中で、日本の実例も紹介していきたい」と語る池田さん。

シェムリァップの課題を把握し、世界のスマートシティの実例を学ぶ場を提供しながら、シェムリァップに最も適したスマート化実現のサポートをするという立場でJICA はさまざまなインプットを行っていくそうだ。

スタートしたばかりのプロジェクト。今後どのような取り組みが行われるのか注目していきたい。

 

 

ASEAN スマートシティ・ネットワーク(ASCN)

日本工営株式会社と「シェムリァップツーリズムクラブ」のMOU締結式(2022年4月)

2018年11月に行われた日ASEAN首脳会議において「持続可能な都市開発」を目指すべく採択されたもの。シンガポールやベトナムのホーチミン・ハノイ・ダナン、インドネシアのジャカルタ・バニュワンギ・マカッサルなどASEAN域内の26都市が参画し、それぞれが抱える環境や交通渋滞などの課題を最新テクノロジーを活用して解決することによって、市民の生活改善と新たなビジネス機会の創出とともに、各都市間でその成功事例などの共有を目指している。

 

民間企業としてシェムリァップのスマート化に挑む

シェムリァップのスマートシティのイメージ図

カンボジアでのスマート化への取り組みには民間セクターも様々な形でかかわっており、いくつかの日本の企業も、これまで培ってきたデジタル技術をカンボジアに提案している。日本工営株式会社もそのひとつ。カンボジア事務所長の島崎裕作さん(44歳)にその取り組みについてお話を聞いた。

 

御社はカンボジアでどのような事業を行っているのですか?

日本工営はエンジニアリングコンサルタントで、海外では主に各国政府の開発支援をしており、プロジェクトの案件形成や計画、工事(設計・施工管理)に係る技術サービスを提供している会社です。カンボジアでは港湾、灌漑、送配電網などのインフラ開発案件の他、技術協力支援等も含めて2022年3月時点で15件ほどの調査を実施しています。シェムリァップでもここ数年で4 件ほどの案件を実施しており、前出のJICA の技術協力プロジェクト「シェムリァップにおける都市課題解決のためのスマートシティアプローチ実装プロジェクト」でもコンサルタントとして弊社も関与しております。

また、日本の国土交通省が推進しているASEAN スマートシティ・ネットワークにカンボジアから3 都市が名乗りを上げ、弊社からはシェムリァップ、バッタンバンに対する企画・提案をし、応札をしました。スマートシティはデジタル技術を駆使して住みよい環境を作るということが目的です。

 

カンボジアのスマートシティ推進に対して、日本企業としてどのようにかかわっていく考えですか?

もともと、カンボジア政府はシェムリァップを対象とした「観光開発マスタープラン」を策定しており、その中にデジタル化というキーワードがあります。一方でシェムリァップ州政府が推進している「スマートシティロードマップ」策定作業に日本の国土交通省やJICA が協力をし、つい先日完成したところです。

このロードマップには州政府が7 つの課題(モビリティー、スマート観光、環境など)を上げており、弊社をはじめとした企業や団体がその課題解決のためのスマート技術を使った解決策を提案し、小規模なパイロットプロジェクトをこれから3,4年かけて実施していく活動が始まったところです。今後デジタル化を進めるにあたって良い部分も悪い部分も見えてくると思いますが、良いところを確認しながら展開させて、様々な企業が今後ビジネスにつなげて行ければと考えています。

 

シェムリァップのスマートシティが目指すものとは?

スマートシティ整備と言っても企業が参入して大規模なインフラ投資をして街を一気に変えてしまうということではありません。州政府が主体となってやっていくわけですから、州政府が運用できないものを押し付けるのではなく、実施できるものを検証しながら採用していく必要があります。シェムリァップに関しては、観光という切り口からその都市づくりをしていくことになると思います。イメージとしては、「観光客に来てもらい、快適に滞在してもらい、将来リピートしてもらう。それによって行政や民間セクターの収入が増える、そのお金で街がきれいになる、強いては住民が住みやすくする。そういった都市づくりをしていく」といったところでしょうか。

ですので、おそらくこの先、住民は「そういえば最近交通事情が良くなったな、治安がよく安心して暮らせるようになったな、公共サービスが充実したな」ということを、じわじわと感じていくことになるのではないでしょうか。そしてそうなるまでには、時間もかかりますし、一気に変わるものではないのだと思っています。

 

今後の事業に対する期待は?

私たちも民間企業の立場からこの都市づくりに関心を持っています。住みよいまちづくりを州政府と一緒に構築していくことを最大の目標とし、日本政府や公的な予算の部分だけに関わるのではなく、一民間企業として貢献したいと考えています。その一つとして、今年4月にシェムリァップのホテル、レストラン、マッサージなどの民間セクターが集まる「シェムリァップツーリズムクラブ」という団体とMOU(協力覚書)を結びました。様々なデータを集めて最適化し、環境改善や人材育成、観光地全体のスマート化を通じた様々なプロモーション活動、スマート観光ビジネスの創出をすることになります。私自身も、今後もカンボジアに根付いてそういう活動を積極的にしていきたいと思います。

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