現在カンボジア国内で配布中のカンボジア生活情報誌NyoNyum115号の特集では「東京2020オリンピック・パラリンピックのレポート」について紹介しましたがそのWeb版も公開します。
「自己の記録を塗り替えろ!~東京2020オリンピック・パラリンピックからのレポート~」
東京2020オリンピック・パラリンピックが終わりました。
みなさんはどこで、誰と、どのように大会を見ていましたか?
カンボジアに住む私たち日本人、それにカンボジア人や各国の人たちも、それぞれいろいろな角度からこの大会を見ていたようです。
新型コロナウイルス感染症の影響がありながらも集まったアスリートたち。
その中にはカンボジア人の姿もありました。
今回、ニョニュムでは大会に出場したカンボジア人アスリートや関係者からさまざまな声を聞いて、カンボジア人から見た東京2020オリンピック・パラリンピックをのぞいてみました。
カンボジアのオリンピック参加の軌跡
東京2020オリンピック・パラリンピックが終わり、皆さんいろいろな思いをもって観ていたと思います。カンボジアからは、オリンピックに3人、パラリンピックに1人の選手が参加しました。
コロナ禍の準備、渡航、競技大会への参加で普段よりもいろいろな困難が伴う歴史的な大会でしたが、カンボジア選手はこれまでにも選手を大会に送ってきました。オリンピックとカンボジアの歴史を少し覗いてみましょう。
近代オリンピック第1回大会は1896年のギリシャ(アテネ)大会。欧米先進国14カ国が参加し、実施競技は8競技43種目、男子のみの出場だった。
以降、参加国や競技数を増やして発展していき、その歴史の中にカンボジア人選手の姿が見られるようになったのは、1956年のメルボルン大会から。同大会に、カンボジアは馬術で2名の選手を送り込んだ。
以来10回の大会に水泳、陸上、マラソン、自転車、カヌー、ボクシング、幅跳び、レスリング、柔道、テコンドーなどの選手が出場している。
だが、一時期オリンピックの舞台からカンボジア人選手が消える。1972年のミュンヘン大会以降、カンボジアは内戦状態となりオリンピックへの参加ができなくなったのだ。
1993年にカンボジアオリンピック委員会が国際オリンピック委員会の正式メンバーとして再度認められたことにより、1996年のアトランタ大会から再びカンボジア選手が参加できるようになった。
今回の東京2020オリンピック・パラリンピックでカンボジア代表選手団は、オリンピックに関してはワイルドカード枠(主催者推薦)、パラリンピックはリプレゼンテーション枠での出場となった。
オリンピック委員会事務局長ワット・チョムラゥンさんインタビュー
Q1.カンボジア国家オリンピック委員会では、今回の東京2020 オリンピック・パラリンピック参加に向けてどのような戦略で臨んだのですか?
大会前には、日本政府や関係機関、日本大使館を通じて、カンボジア政府に東京2020 実施の説明と参加招待を受けました。これを受けてカンボジア政府も、メディアやSNSを通じて東京2020の広報をしてきました。さらに、カンボジア国家オリンピック委員会は選手に対して能力強化、精神統一を促し、コーチ陣含め一丸となって臨む準備をしてきました。
まず、選手たちには国際オリンピック委員会がカンボジアに認めた特別枠で東京2020 に参加する権利を獲得するために、個々人の一層の努力を促すべく、できる限り多くの世界的な大会に参加させてきました。一方で、コロナ禍に行われるオリンピックに参加することになるので、選手たちの健康管理・感染防止対策を徹底しました。
Q2.選手団を率いて日本に行かれましたが、東京での滞在や競技環境をどのように感じましたか?
私たちカンボジア選手団を受け入れるために、主催国である日本は細心の配慮と、そして温かいおもてなしをしてくださいました。成田空港ではオリンピック参加者は別レーンに誘導され、問診や検査をしてくださいました。特に、空港で私たちを歓迎してくれた関係者が、空港での手続きから選手村到着まで、きめ細やかな対応をしてくれましたし、車窓からはオリンピックのためのさまざまな歓迎ムードが伝わってきましたよ。
本当のことを言うと、今回の大会参加前に選手やボランティアの方々が次々に辞退を表明しているというニュースが伝わってきていましたので、自分たちの安全や開催そのものがどうなるのかという不安がありました。しかし、実際に来日するとその思いとは正反対でした。日本人の関係者が、役割を分担して整然と仕事をしているのを見ました。選手村もとても秩序があり、滞在も食事も十分な配慮が行き届いていました。
さらに関心を持ったのは、一般市民のみなさんが選手を見かけると声援を送ってくれ、「ようこそ東京2020 へ」「勝ち負けではない、来日して参加してくれたことでみなさんは勝者です!」といった意味の横断幕を掲げてくれていたことです。このような歓迎は私たちに勇気を与えてくれました。これこそが、オリンピックの精神にある友好と団結の表れだと感じました。
また、開会式にあたって、「スポーツの感動を通じて世界が一つになる」「より良い世界を作る」といったスローガンが掲げられていました。これは、感染症や差別、戦争をなくし、平和を探求するというオリンピックの精神を、カンボジアと同じように日本が高めようとしているということです。オリンピックは闘うことだけでなく世界中の人々が平和に向かって進んでいくというメッセージを持っているのです。
Q3.日本滞在中に何か困ったことはありましたか?
まず、日本のみなさんから温かい歓迎を受け、私たちは安心しました。ただ、新型コロナウイルス感染症をめぐる安全については、不安がありました。ですが、ここまでオリンピック開催に向けて全身全霊を捧げてくださっている日本のみなさんを少しでも応援したいという気持ちも生まれました。暑くて日照りの中での生活は確かに大変でした。ですが、選手村、練習場、競技会場、訪れる場所すべてがきれいに整備されており、快適な環境でさわやかな気持ちで滞在することができました。
練習も問題なく行われ、選手たちもすぐに環境になじめたようです。食事が素晴らしく、選手村では24 時間いつでも大きな食堂で食事をすることができました。世界各国の文化や宗教が異なる選手たちに配慮して、各国料理が並んでいました。新型コロナウイルス感染症が蔓延する中であっても、私たちは常
に安心して快適に過ごすことができました。
Q4.カンボジアの選手の技術面についてどのように思いますか?
今回、カンボジア選手は特別枠で参加させていただきました。すなわち、能力や技術は世界レベルから程遠いことを認識しての参加です。しかしながら、参加した選手は自己ベストを次々に更新し、国家スポーツ連盟、カンボジア国家オリンピック委員会が目指していた目標を達成してくれました。
参加前からメダルに手が届かないことはわかっていましたが、参加したことで彼らが得たものは、技術面・精神面で計り知れないものがあったと思います。他の選手に勝つことはできませんでしたが、自己に勝つことを目標に闘ったこと、そして世界各国の選手たちから多くのことを学んだことは大収穫でした。
1週間の滞在で、寝食を共にし、練習場でふれあい、学び合い、交流し合うこと。それこそが「スポーツ科学」という学問が目指すところだと思います。技術や能力の交流だけでなく、考え方、文化、生活、練習に対する姿勢といった精神の交流は、勝ち負けだけでは得られない素晴らしい財産だと思います。
Q5.東京2020を終えて、選手たちはどのようなことを得て帰ってきましたか ?
まずは、自分が満足できる結果を出せたこと、そして多くの専門分野の経験を積めたことが収穫です。2 つ目は、礼儀、モラル、フェアプレイ、国家代表としての品格を身に付けたと思います。彼らが着ていたユニフォーム、競技ウェアには国旗が描かれています。1,600万人の代表だという意識が、滞在中のあらゆる所作に現れていたと思います。
そのような行動をもって、オリンピックを開催してくださった日本や世界中の関係者、そして世界各国の選手たち、応援してくださるみなさんに感謝の気持ちを示せたと思います。3つ目は、大会会場で風になびいていたカンボジア国旗を見て、名誉な気持ちが沸き上がったはずです。
Q6. オリンピックを終えて、今後カンボジアは2023年のSEA Games主催国としての準備が始まりますね。
今回のオリンピックに参加することの目的の中に、2023年のSEA Games 主催国として、その準備の仕方、マネジメント、大会運営といったことを学んでくるという意味がありました。そのような観点で、東京2020で行われていたことを指標として、2023年の準備をしていきたいと思います。
第1に、参加者の歓迎から、安全対策、滞在場所や練習場の環境整備、食事の準備の仕方です。
第2 に、日本が行っていたような、大会そのものの意義を国民に、社会に、若者や子供たち、障がいを持った人たちに伝え、参加してもらう意識を高めるノウハウです。
第3に、大会会場の運営方法です。国際基準の施設の整備のみならず、景観もとても大事です。特に、最新の設備が整っている大会会場を準備することで、選手たちは競技に集中して実力をすべて発揮することができます。
第4に、試合の中継などのノウハウです。
Q7.2023年のSEA Games に向けて、カンボジアの選手の強化をどのように行っていますか?
カンボジア政府はSEA Games に向けて、準備面・技術面の戦略計画を2016年4月22日に採択しました。その戦略にはもちろん、メダルを狙うための綿密な計画が盛り込まれています。
しかし重要なのは、主催国として国家の品格と名誉を示していくというソフト面です。この大会を通じて、カンボジアの名誉と品格、技術の高さ、心の温かさを総合的に示していこうと思っています。
技術面については、国防大臣を委員長とし、観光大臣を常任副委員長、その他多くの副首相級が副委員長に名を連ねる「2023年SEA Games 準備国家委員会」を発足しました。
それぞれの省庁で担当する競技を割り当て、数年前から練習環境の強化と選手に対するさまざまなサポートが始まっています。すなわち、来る2023年のSEA Games は国家が総力を投じて臨むことになっています。
選手たちには、できる限り多くの地域・世界の大会に参加するチャンスを与えていきます。また、選手だけでなくコーチの育成や強化を行っています。その中で、外国人コーチの採用も積極的に行っており、現在6 種目に外国人コーチが常駐でついています。
また、国外での訓練のために近く100人以上の選手をヨーロッパ、アジア、アメリカなどの国々に派遣する予定です。さらに、国外にいるカンボジアをルーツに持つ選手を呼び寄せ、国のスポーツ人材に厚みを持たせ、2023年に向かいたいと思っています。
コラム
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