プノンペンには高等学校の教員養成学校である国立教育研究所(NIE)の他、初等・中等学校の教員を養成するプノンペン教員養成大学(PTEC)がある。そのため、質の良い教師のキャリアを目指してプノンペンに上京して学ぶ若者が多くいる。フン・マネット首相の新政権発足と共に教員の質を向上させるため、PTECではいろいろな教育の取り組みをしているという。初等・中等教育レベルの教員を養成する立場にあるPTECの副学長であるペン・ティトソティー(PEN Tithsothy)氏が、PTECの学生の学習と教員の研究の現状、抱える課題などについて色々な事情を話してくれた。
Q: 約10年前と比較して、教師に憧れる若者の熱意の現状について教えてください。
A: 前と比べて現在は、教師を目指す若者が年々増加しています。例えば、今年の7月に初等・中等学校の教員採用試験の募集があり、今年は教師になりたい応募者数が全国で4万人にも達し、これまでにない記録となりました。その背景にはいくつかの要因が考えられます。先ずは、新政権の元で行われた政府の改革により、教員候補生試験に受かると公務員として認められるようになり、教員候補生試験合格の時点で公務員である教師の給料の70%(約130ドル)に相当する奨学金が支給される制度がつくられたからです。それまではこのような制度はなく、ほとんどの学生が養成学校を出て正式に公務員に認定されるまでは月に8万リエル(20ドル)の支援金が支給されるだけで、大学の学費などは自己負担となっていました。この新しい奨学金制度は学生に大きなメリットで、魅力的です。次は、教員養成学校の卒業証書が、教師というキャリアを認定するものとして国内外で幅広く認められるようになることが考えられます。本校は教員を教養する教育機関です。昔と比べて今はこの養成学校は、一般の大学またはNIEと同等に格上げされ、国家公務員である初等・中等の教員を養成する大学なりました。そのため、現在この学校を出た学生の卒業証書は他の大学の学士号と同等の価値を持ち、卒業生は公式な教師のキャリアを国家公務員としてスタートできるようになったのです。卒業生の多くは、本校の卒業証書をもって田舎に帰り、教師のキャリアを積んでいきます。要するに、卒業後の就職先を探すのに困らないのです。さらに、本校では留学制度もあり、優秀な学生であれば、教師研究などで日本やアメリカ、西洋諸国への留学ができるという、グローバルな教員人材を育てています。この点も魅力があるようです。
Q: 教員養成学校のカリキュラムはどんなものですか。
A: この教員教養学校では、教育省が定めた政策に基づいてカリキュラムなどの開発を自らしています。教師を育成するカリキュラムは一般の大学などで学生が学ぶカリキュラムと全く違うため、カリキュラムは本校で独自に開発しています。他にも、試験開発や教科書の開発、レッスンプラン作成、クラスで使うアセスメント手法など、教師が利用するあらゆる教材や教育コンテンツの開発に積極的に取り組んでいます。
Q: 教師を教養するにあたって、学校として直面する問題はありますか?
A: 実は教員養成にはいろいろな問題もあります。本校は教員候補生を育成するための教育はもちろんのこと、候補生を教える教官の教育も重視しています。現在は、教員養成のための良いカリキュラムがありますが、実際の教育現場をみると、本校で教えた教育コンテンツをきちんと理解して実践できる教員数がまだ不足しています。養成学校としての教員養成がまだまだ満足できるレベルに達しているとは言えません。ですから、我々はこの点を重く受け止めて力を注ぎ、教員候補生がプログラムにきちんとついて行けるよう、いろいろな工夫をこらして取り組んでいます。次は使用する言語の多様化の問題です。公用語はクメール語とは言え、我が国は英語圏の先進国から教育関係の支援を頂いているほか、日本からの援助も受けています。このため、リサーチで使う言語、特に英語の使用レベルに差があり、問題となっています。例えば、若い教官は英語が上手に使いこなせるものの、年配の教官の多くは英語能力が不十分です。それゆえに、先進国からの支援による教官の能力強化のコースに出ても英語で自らの考えを発言できなくて困ったり、また、英語能力が十分でないとセルフリサーチでも困ったりするという問題がみられます。それゆえに、学校として教官の英語学習の能力を向上するためにACEという英語学習センターやアメリカ大使館が実施する英語学習コースなどに教官を派遣したりする取り組みをいろいろやっていました。もうひとつは、教官のリサーチカルチャーの問題です。我が国には教官のリサーチカルチャーがあまりないため、年配の教官と若手の教官の間には差があります。もう一つは教師を目指す学生を指導する教え方の問題です。先進国が実施する最新の教育と比較したら、だいぶ遅れているという問題があります。ティチャーセンターからシュチューデントセンターに移行した指導法を採用しても、実際には学生中心のクラス運営という成果に疑いがあります。また、評価法の問題もありますが、学校としてはそういった課題に様々な取り組みをしています。
Q: 学生の学習現状では?困ったりすることがありますか。
A: 昔は経済的な事情で相談に来る学生の姿がよくありましたが、現在は奨学金制度で月に約130ドルが支給され、学生の経済的な問題は大分軽減されました。他方、本校では卒業生が公務員としての教師のキャリアをきちんと進めるように、学習カリキュラムには論理的かつ実践的な内容のものが多く取り入れられています。そのため、学生は常に自主学習を行い、リサーチ能力を身に着け、授業に参加しなければなりません。将来子供たちを教えるために、レッスンプランや試験開発、アセスメントなどしっかりと学ばせ、卒業後は皆が自らそういったものを開発しながら有効的に利用してもらう必要があります。そのため、普通の大学よりは、本校では理論的に学ぶことや実践的に学ぶことも多くあり、それなりに精神的な負担があるかと思います。
Q: PTECへの支援は何処の国からが一番多いですか。
A: 日本が一番多いです。物理的かつ人材育成に直接的な援助を他の国よりも多くしてくれています。例えば、近年はここのPTECとBTECの新しい校舎の建設や設備設置、教育機材の設置など約120百万米ドルの援助をしてくださいました。現在でも、本校の教官を育成するために様々なプロジェクトを展開してくださっています。過去のカンボジアの平和構築に留まらず、今も他国よりカンボジアの人材育成に積極的に援助をしてくれる日本政府と日本国民に教員養成学校として感謝したいです。
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