2011年、25歳のときにネイルサロンとして「Bi SALON」をプノンペンにオープン。現在はヘア、アイラッシュ、エステなどトータルビューティーを扱う美容サロンとして経営されており、ミス・カンボジア代表などと仕事をすることも。
そしてケマラさんは高校時代に日本への留学を経験し、過去には通訳のお仕事もしていました。そのため、今回のインタビューはすべて日本語で実施。彼女がビジネスを始めたきっかけや日本との関わり、カンボジア社会に思うことなどを伺いました。
プロフィール
Bi SALON(美・サロン)代表
ケム・ケマラさん
高校時代に大阪へ1年間の留学を経験後、プノンペン王立大学ではITを専攻。国際病院や日系の美容サロンで働きながら大学へ通う。卒業後日本での就職が決まっていたが、東日本大震災の影響でカンボジアへ帰国。2011年にBi SALONを立ち上げた。
25歳でビジネスを立ち上げた理由
――まず、この美容サロンのビジネスを始めようと思った理由やきっかけを伺ってもいいですか。
もともとは、ある程度キャリアや経験を積んだ上で40代・50代になってから社会に貢献できるような事業をやりたいと思ってたんですよ。だから大学卒業後の就職も決まっていて、日本の病院で働くはずだったんです。でも2011年の3月6日に日本へ到着したら、すぐに東日本大震災があって。その仕事に就けなくなってしまったのでカンボジアに帰ってきました。
その頃にちょうど、私が大学時代に働いていた日系の美容サロンでネイリストをしていた女の子たちが、そこを辞めて市場で就職するという話を聞いたんです。
――もともと美容業界との繋がりがあったんですね。
そう、それで彼女たちが市場で就職するなんてもったいない! と思って。だって日本のネイリストさんから教わった接客や、日本で通用するような技術を持っていたわけです。その技術をもっとカンボジアで広めてほしいと思ったんですよね。だから「一緒にサロンやってみる?」と声をかけて、ネイルサロンを始めました。
――大学時代に働いていたという話がありましたが、アルバイトということですか?
アルバイトというか、仕事のほうが生活の中心でした。私は大学の夜の部に通っていたので、周りも働いている人が半分以上かな。(注:カンボジアの大学は朝・昼・夜の3部制を取っており、働きながら通う学生も多い)
高校時代に日本へ留学していたので「お嬢様だよね」なんて勘違いされますけどね。留学は奨学金だったし、大学の学費も全部自分で払っていました。親からは高校を卒業したあと大学で勉強したかったら「自分で稼いで勉強しなさい」って言われてたので。
――そうだったんですね。高校時代に日本へ留学して、大学でも日本語を専攻されたんですか?
いや、大学は王立プノンペン大学のIT専攻です。今まであまり人に大学の話はしたことがなくて、日本語学科出身だと思ってる人も多いですね。親からのプレッシャーもあって、大きなスケールの仕事ができるように英語と日本語とパソコンが使えるようにしようと考えてたんです。
経営者としての人との向き合い方
――ビジネスをする中で、特に困難なことはありましたか。
人間関係ですね。というのも、大学時代の経験に心残りがあって、今もいろんな人に勉強させてもらっています。大学生のときに、国際病院で働いてから美容サロンにスタッフチーフとして転職したんです。そしたら一緒に働く人が、お医者さんとか医療関係者から、高校も卒業してない、小学校も行っていないっていう人たちに変わったんですね。
例えば美容サロンで部下が失敗したときに、「これは違うよ」「それはダメでしょ」っていうのを病院に勤めていたときと同じスタンスで言ったら、スタッフから「カンボジア人の敵」なんて言われてしまって。相手に合わせて、考え方をお互いに勉強しながら成長していかないとと思いましたね。
――大学時代の反省から、今スタッフにはどのように向き合っているのでしょう?
とにかく楽しく仕事ができるようにしています。雨が降っていたら「雨でも大丈夫なヘアセットを考えてみよう!」とか、スタッフから意見を聞き出したり。自分がオーナーだから指示を出そうというのはダメ。人って上から目線は嫌なんですよ。
聞く姿勢を見せると、相手も考えるから。「わからないことがあって質問される」っていう状況は、モチベーションになるんですよ。わたしはカンボジア人と日本人とも働いている経験がありますが、もっと褒めましょう。人って褒めるとやる気になりますから。もちろん、技術の向上や成長に向かって努力していないときは別ですが、そこはバランスですよね。
カンボジアの女性が働くということ。ケマラさんにとって仕事とは?
――日本のTedでのプレゼンテーションを見たのですが、カンボジアの女性にもっと自信を持ってもらいたいという話が印象的で。ケマラさんは日本語もITも勉強して働くことをとても楽しんでいますが、一般的にカンボジアの女性は働くことに対してどう考えているのかが気になります。
私が一番感じているのは、マイナス思考な人が多いということです。そういう教えで生きてきたから、自信が持てない。カンボジアには「自分は低い地位にいるんだから高望みしないで」とか、「貧しい人がお金持ちと付き合ってはいけない」とか、マイナス思考なことわざがいっぱいあるんです。私も日本語を勉強してなかったら、それが当たり前だと思っていたと思う。
日本では子どもに「高い志を持って」とか「将来の夢は?」とか言うじゃないですか。だから私は今のサロンスタッフに、「カンボジアで1番を目指そう」とか「世界のどこでも活躍できるようになりましょう」とか言うの。それに届かないのは悪いことじゃなくて、楽しく前向きに、普段から努力をしてやりきることが大事なんですよね。
――なるほど。日本では女性の社会進出が進んでいく中で、たくさん働きたいという人と、働きたくないという人のすれ違いが起きてしまっているように感じるんです。それについてはどう思いますか?
私も別にみんな働かなきゃいけないとは考えてないです。専業主婦も大好きな旦那さんと幸せでいれば最高ですし、人生がハッピーならいいんです。でも、「社会に出て働いてかっこいい、お金を自由に使えていいな〜」って言われると、悲しいんですよ。その人はなんて不幸なんだろうって。やりたいことをやれるのが一番ですよね。それぞれ幸せに思う基準がある中で、今の自分に満足できるようになってほしい。
正しい美容の知識を伝え、社会に貢献する
――ネイルサロンから始まって、現在はトータルビューティへと拡大してきましたが、今後の展開はどのように考えていますか。
美容の知識を一般の人にシェアすることが大事なポイントだと思っています。店舗数を増やすのは考えていないです。今は日本人の美容師さんがいてくれていますし、他のサロンとの交流を作って、ヘアとかまつげ、ネイルの講習会などもやっていこうと思っています。店舗数よりはそういう講習とか、プロデュースとかコンサルみたいな仕事の方が社会貢献になっていくのかなと。
このビジネスはソーシャルビジネスだと思っているので、スタッフだけじゃなくて、他のサロンへの教育、お客様への教育を大切にしていきたいですね。
――社会貢献の気持ちが強いということですね。
はい。サロンを経営していく中でご縁があって、孤児院の子や聴覚障害のある人を採用したりもしていて。というのも、日本で大震災を経験して、もし死んでしまっていたらということをいつも考えるんです。そうしたら、お金を持ってても意味がないじゃないですか。それから、できれば継続性のある貢献をしたいと思っていて、ボランティアよりビジネスだよなと思って。
カンボジアの美容業界に貢献するために、違うサロン同士の交流の場を作って勉強し合って、ちゃんと知識を持っている美容師さんが自信を持ってサービスを提供する。そうしてカンボジアにも普段から美容を意識する人がもっと増えてほしいと思っています。
<その他、カンボジアで活躍中の方のインタビュー記事はこちら>
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