NyoNyum Magazine にて連載しているコラム「アンコール見聞録」
上智大学アジア人材養成研究センター現地責任者として、シェムリアップでアンコール建築に関する研究を行っている三輪悟さんが、アンコール建築の歴史や、遺跡の周りで営まれる生活、カンボジアにまつわるあれこれを綴ります。
今回は、「スラスラン中央寺院(仮称)の復元・再構築」について。
作業前のスラスラン中央寺院
バンテアイクデイの東に寺院と一対として設計されたスラスランは、アンコール時代の人造貯水池である。
ここの中央には、西バライにおける西メボンと同様に、かつて人工構築物があったが、長らくがれきの山であった。
雨季には水面下に没するため、水位の下がる乾季にのみ土の上に散乱する石材をかろうじて見ることができた。
2003年撮影の写真を見ると、往時の姿を想像することは困難であった。
復元・再構築への挑戦
アプサラ機構は1995年2月19日に創設され、この2月で26年目を迎えた。
四半世紀を超える活動を通じて実力をつけてきたアプサラ機構は、外国の支援に頼ることなくスラ
スラン中央寺院修復工事の諸準備を整えた。
2019年9月に修復工事起工式典を行い復元への挑戦を開始した。当初は蓮の花形の塔なのではないか? と想像を膨らませた。
散乱する石材を一つ一つ拾い上げ調査を進めるうちに創建時の形状が徐々に明らかになってきた。
修復担当にはアプサラ機構において経験豊富な技術者であるMao Sokny氏が選ばれた。
亀の石彫発見と訪問者の急増
周辺の発掘調査を進める中で大量の水晶や二体の亀の石彫等が発見された。
2020年5月には副首相や観光大臣、文化大臣などのVIPが調査発掘現場を視察し、TV や新聞をにぎわせた。
管理上現場には電線が延長され、夜間も作業員が常駐し希少な彫刻類を守った。
貴重な亀のオリジナル石彫はシハヌーク・イオン博物館(注)に収蔵され、一般公開されている。
亀の石彫二体は本物に代わりレプリカが作成され現場に埋蔵された。
水との戦い
現場は貯水池の中央にあるため、周囲に40m四方の土手を構築して内側の排水を行い作業が行われた。
昨年10月にはカンボジア各地で洪水が発生するなど大雨が降り、現場は土手の上限まで水位が上昇し、冠水の危険があったが何とか事故なく危機を乗り越えた。
2020年末頃には主要な再構築作業をすべて終えた。
約15カ月間で完成に至ったことは担当者らの豊富な知見や経験に加えて、関係者が一丸となり協力支援した見事な成果であると称えたい。
将来の一般公開
今後、作業に用いた止水土手を撤去した後、一般の訪問者が見学できるようにする方向で検討がなされている。
長い桟橋で行くのか、ボートでアクセスするのか、今後現実的な検討と決定がされることになる。
いずれもこれまで未経験の見学地ができることになるので、コロナ禍後の楽しみにして欲しい。
注:上智大学がイオン1%クラブの資金協力を受けシェムリアップに建設した博物館。2007 年11 月に落成し、カンボジア政府に寄贈された。現在アプサラ機構が運営・管理しており、アンコール地域の出土遺物を収蔵する重要な施設となっている。
(この記事は2021年2月に発行されたNyoNuym111号に掲載されたものを再掲しています。文中の情報は当時の情報です。)
上智大学アジア人材養成研究センター(シェムリァップ本部)助教
1997年10月よりシェムリアップ在住。専門はアンコール建築学。NyoNyum89号(2017年6月号発行)より遺跡やカンボジア生活にまつわる本コラム『アンコール見聞録』を連載。
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7:死んだカエルと干しガエル
8:アンコールワットの矢ワニ
9:西参道正面北側のナーガ
10:石の穴 あいたり、消えたり
11:遺跡内は犬禁止
12:米価が3倍になる継続性
13:外国人の遺跡入場者数
14:仏人がジャワに学んだ修復手法
15:アンコールワットの睡蓮
16:大阪万博 旧カンボジア館
17:アプサラ機構創設25周年
18:プノンペンオリンピックスタジアム
19:新型コロナとアンコール観光
20:聖山クーレンでのキャンプ体験に想う
21:聖山クーレンでのキャンプ体験に想う(続編)
22:統計に見るウイズ・コロナのアンコール観光
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