【ボンユキエッセイ No.126】ニョニュム連鎖
【ボンユキエッセイ No.126】ニョニュム連鎖
2023.09.16

2003年のNyoNyum創刊当初から連載している「ボンユキエッセイ」。

カンボジアに長年住むと街の移り変わりが見えてくる。

おもしろくもあり、どこかもどかしくもある。

通訳、翻訳、会社経営に奮闘中のボンユキこと山崎幸恵がおくるカンボジアあれこれ。

今回は、「ニョニュム連鎖」です。

 

ニョニュム連鎖

2023年8月22日。カンボジアに新政権が発足しました。1993年の選挙から1年ちょっと経った1994年7月にカンボジアに足を踏み入れた私は、当時2人の首相が置かれた政権だったのがその後幾度かの出来事を経て単独首相体制となっていったり、縫製工場を中心とした労働集約型産業への外国直接投資が入り、労働者の賃金が当時40ドル程度だったのが現在では最低賃金 200ドル(2023 年度)となったり、省庁での表敬訪問などの時に座っていた木の椅子がいつの頃からか豪奢な高級家具に置き換わっていたり…、そんなカンボジアの30年間の変化をいろいろな角度から見てきました。

新政権発足前日に担当した通訳の場面で、「古い血を引き継ぐ新たな政権」と表現したカンボジアの高官の言葉を聞き、私はその意味を考えました。カンボジア人の中でも立場によって、そして外国人の私
たちにもいろんな解釈があると思います。私はその言葉を聞いているとき、なぜか通訳者として出会った、村人、子供、学生、地方の役人、中央省庁の官僚、閣僚、国王、僧侶など、本当にいろいろな立場のいろいろなカンボジア人の顔が浮かび上がってきました。そして、そのすべての方々が「笑顔」でいてほしい、そういう新たな時代になってほしいと思いながらその言葉を通訳しました。

ニョニュムはこの20年間、カンボジアの「笑顔」を伝えてきました。カンボジアにいろいろな負の面や嫌な面があることももちろん知っています。私自身も泣いたり悔しい思いをしたりしてきたし、周りにも苦しい思いをしている人がいるのを目の当たりにしたこともあります。でもそんな中で、あえて「笑顔」を切り取って伝えることを選んだのです。日々の生活、人の営み、その中にある笑顔を伝える。この国に笑顔になれる要素があるということを伝え、笑顔の連鎖が広がればいいのでは。…そんな思いから。だからこそ、カンボジアの新政権下での人々の営みが、笑顔でいっぱいになりますように。そう思ったのです。

今年の甲子園球児たちが「必笑」の精神でプレーをしていたのだ、ということを聞いたときに、ニョニュムが20年間やってきたこと、そしてこれからやるべきこともここなのだなと思いました。20年間、126号すべてが「笑顔」だったニョニュム。多分陰で泣くこともあると思いますが(苦笑)、これからも「必ず笑顔で、笑顔を届けていく=必笑」の精神で「ニョニュム連鎖」を引き起こせるような、そんなニョニュムであり続けられればと思います。

 

〈ボンユキ・プロフィール〉

Cambodia Joho Service 代表
/日本カンボジア通訳翻訳家

神奈川県出身。在カンボジア歴、足掛け29年
翻訳、通訳のほかカンボジア関連のアレンジやコーディネートを手がけることも。
仕事に追われつつも、大好きなビールは絶対に欠かさない。
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