アンコール見聞録 #27 レッドゾーン指定でついに修復作業がストップ
アンコール見聞録 #27 レッドゾーン指定でついに修復作業がストップ
2021.11.08

NyoNyum Magazine にて連載しているコラム「アンコール見聞録」

上智大学アジア人材養成研究センター現地責任者として、シェムリアップでアンコール建築に関する研究を行っている三輪悟さんが、アンコール建築の歴史や、遺跡の周りで営まれる生活、カンボジアにまつわるあれこれを綴ります。

今回は、シェムリアップ内の各エリアがレッドゾーン指定になり、修復作業がストップしたことについて。

 

レッドゾーン指定でついに修復作業がストップ

2020年

アンコールワット北寺でのお盆行事 (2019 年9 月)
*本年のお盆行事は感染予防のため中止となった

本コラムでは昨年より何度かコロナ禍を取り扱ってきた。一部内容が重複することはお許し頂きたい。

アンコール観光においては2020年1月末から3月にかけて観光客数が急落した。

3月末にはシェムリアップ空港の航空機の発着がゼロとなり、アンコールワットはカンボジア人参詣者も含め人の姿が消え静寂の空間となった。

市内では年末から38本の道路拡張工事が開始され、コロナ禍で営業を続けた店舗にも多大なる影響を与え、市内の電飾はさらに消えることになった。

 

観光史に残る観光禁止措置

カンボジアにおいて新型コロナが全国的に急増したのは、2021年2月のいわゆる2.20事案以降であった。

アンコールワットはその後7か月の間に、下記の通り3度の閉鎖を経験している。

長いアンコール観光史の中でも、政変を除き制度として長期にわたり観光が禁止されたことは初めてだったのではないだろうか。

1回目の閉鎖:2020年4月7日~29日
2回目の閉鎖:2021年7月30日~8月19日
3回目の実質上の閉鎖:2021年9月17日~30日
→ レッドゾーン指定のため。指定は延長の可能性がある。

 

遺跡保護作業が止まった

アンコールワット第三回廊での作業開始のお祈り(2021年8月)アプサラ機構Mao Sokny 氏提供

昨年3月WHOがパンデミックを宣言して以来、遺跡が閉鎖となろうと、町が夜間外出禁止となろうと、
アプサラ機構は努力を続け、遺跡保護作業は一貫して精力的に継続された。

アンコールワットの堀沿いには中も外も芝が植えられた。第三回廊バカンを始め新たな修復現場も立て続けに着工してきた。本年8月の遺跡閉鎖の際も保守作業が止まることはなかった。

ところが、今般9月17日からのレッドゾーン指定は流石に事情が異なった。

アンコールワット前広場からアンコールトム、西バライ北側に至る広域がレッドゾーンという最も厳しい行動制限を伴う措置を受けたことで、アンコール遺跡の修復などの保護作業は完全に一時停止した。

その裏には、時間をかけて遺跡周囲の村々に深く侵入した新型コロナウイルスの存在があり、背景としてデルタ株の影響でこれまでと同じ予防対策だけでは、感染の広がりを抑えられなかった事情があると推察される。

バカン周囲での作業(2021年8月)アプサラ機構Mao Sokny氏提供

 

シェムリアップ市内の様子

シェムリアップ市内中心地域におけるレッドゾーン指定は正確には9月17日(金)午後1時以降に適用された。筆者もレッドゾーン内に居住する。

この日朝8時半にアンコールマーケットを訪れると、生鮮食品棚には十分に品物が並んでいたため、たっぷりと買い込み、来るべき籠城に備えた。

規制発効後は、外出を控えたため、その後の市内の様子は見ていない。

18日(土)午後には市内の外国人の台所と言ってよいアンコールマーケットが店のシャッターを下ろし、デリバリーのみとなった。

19日(日)午後にはフードパンダが営業を一時停止した。

当局は外出禁止措置への違反者に対して罰金に加えてバイク没収という厳罰を適用した。過去に例のない厳しさに市民はうろたえた。

その後も州内の各地で新たなレッドゾーン指定の地域が続出していることから、州内の感染状況が厳しい状況にあることがわかる。

新型コロナの状況は急変する。

本号が発行され配布される頃の状況を正確に予測することは正直困難と感じる。

10月の学校再開や11月の観光再開といった政府の目標は当地の政府にとって大きな圧力となっている面もあるであろう。

果たして今後どうなるのか。

ともあれ一日も早い終息を願う。(脱稿:9 月26 日)

(この記事は2021年10月に発行されたNyoNuym115号に掲載されたものを再掲しています。文中の情報は当時の情報です。)

 

コラムニスト: 三輪 悟(みわ・さとる)

上智大学アジア人材養成研究センター(シェムリアップ本部)助教
1997年10月よりシェムリアップ在住。専門はアンコール建築学。NyoNyum89号(2017年6月号発行)より遺跡やカンボジア生活にまつわる本コラム『アンコール見聞録』を連載。

 

 

前の記事:

過去の記事

7:死んだカエルと干しガエル
8:アンコールワットの矢ワニ
9:西参道正面北側のナーガ
10:石の穴 あいたり、消えたり
11:遺跡内は犬禁止
12:米価が3倍になる継続性
13:外国人の遺跡入場者数
14:仏人がジャワに学んだ修復手法
15:アンコールワットの睡蓮
16:大阪万博 旧カンボジア館
17:アプサラ機構創設25周年
18:プノンペンオリンピックスタジアム
19:新型コロナとアンコール観光
20:聖山クーレンでのキャンプ体験に想う
21:聖山クーレンでのキャンプ体験に想う(続編)
22:統計に見るウイズ・コロナのアンコール観光
23:スラスラン中央寺院(仮称)の復元・再構築
24:新型コロナ一年
25:紙幣の図柄をよく見ると
26:遺跡修復新時代
27:レッドゾーン指定でついに修復作業がストップ

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