(日本語) アンコール見聞録 #20 「聖山クーレンでのキャンプ体験に想う」
(日本語) アンコール見聞録 #20 「聖山クーレンでのキャンプ体験に想う」
2020.08.16

NyoNyum Magazine にて連載しているコラム「アンコール見聞録」

上智大学アジア人材養成研究センター現地責任者として、シェムリアップでアンコール建築に関する研究を行っている三輪悟さんが、アンコール建築の歴史や、遺跡の周りで営まれる生活、カンボジアにまつわるあれこれを綴ります。

今回は、聖山クーレンでのキャンプ体験で想ったことについて話していただきました。

 

聖山クーレン

ジャヤヴァルマン 2 世は 802 年にプノン・クーレン(カンボジア語でプノン=山、クーレン=ライチの意)にて王位を宣言し、アンコール朝が始まった。

ヒンドゥー教の宇宙観より、山はメール山に、山を源流とするシェムリアップ川はインドの聖なるガンジス川に、それぞれ見立てアンコール地域の壮大な構想が計画された。

雄大な滝や古代の彫刻がある河床は、この歴史的意味合いも相まって、市民の休日の憩いの場として一番人気である。

想像を超える豊かな自然と歴史文化溢れる素晴らしい環境を兼ね備えた神聖で貴重な場所である。

山は山頂部が標高 400m 程の平坦な形状で、山上の村には 5,000 人余りが暮らす。

 

国内需要としてのキャンプの流行

クーレン山でのテント泊

カンボジアの農村部の暮らしは、誤解を恐れずに表現すると、都会の視点からは「自然と共生するキャンプ的生活」である。

内戦からの復興が進み、その後の持続的発展のおかげで、カンボジアの国民はかつてとは大きく異なる平和で豊かな暮らしを享受している。

全国的に都市化が進み、暮らし方も変容していることは疑う余地が無い。

そんな折新型コロナの影響で、時間のできた都会のカンボジア人の若者がアウトドアを目指す新しいブームが生まれている。

その一つが大自然の中でのテント泊であり、ネット上にはキャンプ情報が数多く見られる。

旅行業界は、激減した外国人旅客ニーズを国内需要で埋める好機と捉えこのブームに関心を寄せる。

 

「エコ意識の醸成」に努力したい

川で水浴びに興じる子供

クーレン山は国立公園であり、環境省が保護に取り組んでいる。

しかしながら違法な森林伐採に加えて、違法な開発や居住、ごみ投棄の問題が未解決のままである。

アクセスの悪さが幸いし、これまで山の奥地が荒らされることはなかった。

ところが現在、山の東側のスヴァイルーから山を登る大規模な車両道路が整備中であり近く完成する。

建設中の巨大な登攀道路

開通後は車で山上を通り抜けることが可能となり、マスツーリズムの影響は山の全ての事象に及ぶ。

些細なことではあるが、注意すべき具体例を挙げる。

特に経験の乏しい手配者と参加者による宿泊型キャンプなどの場合、

①自然の樹木や岩石を傷めたり落書きなどはしない
②ゴミは極力持ち帰り投棄しない
③山で暮らす住民の生活を尊重する

など自然や環境と文化に配慮した基本的で最低限のルールを徹底してほしい。

旅行会社には、まずは自ら学び訪問者に教育し、「持続可能な発展のためのエコ意識を醸成する」努力をお願いしたい。

カンボジアの豊かな自然や文化を後世に伝え、人と自然が共生する道を模索することは、21 世紀の大人の責任である。

山中に投棄されているゴミ

(この記事は2020年8月に発行されたNyoNuym108号に掲載されたものを再掲しています。文中の情報は当時の情報です。)

コラムニスト: 三輪 悟(みわ・さとる)

上智大学アジア人材養成研究センター(シェムリァップ本部)助教
1997年10月よりシェムリァップ在住。専門はアンコール建築学。NyoNyum89号(2017年6月号発行)より遺跡やカンボジア生活にまつわる本コラム『アンコール見聞録』を連載。

 

 

前の記事:

過去の記事

7:死んだカエルと干しガエル
8:アンコールワットの矢ワニ
9:西参道正面北側のナーガ
10:石の穴 あいたり、消えたり
11:遺跡内は犬禁止
12:米価が3倍になる継続性
13:外国人の遺跡入場者数
14:仏人がジャワに学んだ修復手法
15:アンコールワットの睡蓮
16:大阪万博 旧カンボジア館
17:アプサラ機構創設25周年
18:プノンペンオリンピックスタジアム
19:新型コロナとアンコール観光

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