現在、カンボジア国内で配布中のカンボジア生活情報誌NyoNyum119号の特集のWeb版です。
「変わりゆくクメール女性たち~古来から現代につづくカンボジア女性の姿~」
経済発展が進むカンボジアでは、省庁や民間企業での女性の活躍が目立つようになっています。カンボジアの伝統風習では、女性は結婚して妻となり、主婦として料理・洗濯・夫や子供、親の世話をして家を切り盛りするものとされてきました。
しかし現代では、家事に加えて仕事をして収入を得る女性が増えています。主婦の80% が家計に収入をもたらす仕事をしているとする調査結果も。
一方で、古来カンボジアでは社会における女性の地位は高く、それを示す文化・思想も多く残っています。そして今もカンボジア人女性の心の中にしっかり根付いています。
では、カンボジア社会における女性の伝統風習とはどんなものなのでしょう?そして現代において働くカンボジア人女性の環境はどのように進化しているのでしょう?
カンボジア女性の職場・役職等の環境は?
男女平等の環境の中で、職場で活躍する女性が多くいる今のカンボジア。ひと昔前(~ 2005 年あたりまで)は、一般家庭では娘には門限を課したり、女性は男性のように夜遅い時間まではもちろんのこと、実家から遠いところへ出勤や出張をしたりすることは滅多に許されていませんでした。
しかし現在ではジェンダー平等が重視され、男女問わず大学に進学して高学歴を目指したり、各界でさまざまな職種に就いて働く若い女性が目立つようになっています。彼女たちはどんな思いを持っているのでしょうか。各分野で活躍する女性たちの思いを聞いてみました。
警察官として市民生活に貢献
チァ・ヴォッティニーさん(35)
チァ・ヴォッティニーさんはシェムリァップ在住で、同州警察入国部の外国人管理課・調査部門に所属しています。2011年にプノンペンの国立経営大学を卒業し、家族の仕事の手伝いをするためにシェムリァップに帰郷。2014年に州警察が人員募集をしていると聞き、街の安全保持に貢献したいという気持ちと、警察で働く女性がまだ少なく、組織も女性を重視していないと考え自ら応募を決めたそう。その具体的な思いをお聞きしました。
現在の仕事は、シェムリァップで働く外国人経営者や外国人従業員のいる会社組織の管理をし、労働法や入国管理に関する法律と提出書類の照合を行うもの。調査の際は、内務省入国管理総局および労働省からの協力を得て、州の入国管理事務所、労働局の職員からなるグループで実施する。法律に抵触する何らかの事実があった場合、その会社組織に指導をし、改善を求める。
だが、法律に反する行為に対してはその場でペナルティーを課したり、本国に送還するためにパスポートを押収したり身柄を拘束して、送検書類を作成することもあるという。
「警察官は忍耐が必要な仕事です」と語るヴォッティニーさん。入職当初は未経験の仕事に戸惑うことばかりだったという。特に上司から叱責されることが多かった。だがヴォッティニーさんはそれらの叱責に怯むことはなかった。仕事に従事するための訓練を受けるなかで、自分の精神を高めるために叱られているだけのこと、そう思ってきたという。
在職8年のヴォッティニーさん。時に困難な事案に直面することもある。カンボジアには、他の貧困国から移り住んでくる外国人も多く、法律が求める要件を満たしていないケースが多々ある。そこで、法に基づき生活するための指導を行うが、時に外国人が逃げ出そうとすることもあり、職権でその対象者に力を使って抑え込む必要もある。
また、薬物を使用する外国人のケースもあり、職務質問中に逃亡しようとした外国人を取り押さえることもある。地元警察として市民を守るためには、威厳をもって法を執行しなければならない。現場に赴いたり、捜査をしたり、職務質問をしたりする地道な仕事を日々遂行している。
困難な仕事ではあるものの、ヴォッティニーさんは警察官という仕事における女性の意義を感じている。力では男性に劣るのは当然だが、男性警察官に解決できないソフト面を、女性警察官が担えるのだという。
「どの組織でも女性が従事することのメリットはあります。女性は男性よりも思慮深く、困難に直面したときに知恵を働かせます。男性は力が先に出ることが多く、また法の執行のために態度が硬くなります。時にそれが事態を悪化させてしまうこともあるんです。対して女性は穏やかに物事を解決するために、柔らかい言葉遣いや態度で臨みます。これで仲裁がスムーズに進むことも多く、暴力をふるうような事態も避けられます」
現在所属している職場は女性に対する理解もあり、モチベーションが高く保たれているという。「上司の配慮もあり、女性に対して以前のような差別はないと思います。逆に、法事のための休暇や、現場での検挙があった後などは、女性職員は男性よりも優先的に休ませてもらえます。また、力を使わない仕事を与えるなどといった配慮があります。昇進・昇格は能力次第ですから、男性も女性も平等です」
カンボジアのジェンダーについてヴォッティニーさんは、まだ十分に平等とは言えないと思っている。なぜなら、社会国家における女性リーダーの存在はそれほど目立たないからだ。あらゆるセクターで、男性の比率のほうが高いと感じられる。だが、男性の成功の陰には女性の支えがある。
「カンボジアの女性に、これまで以上に勇気を持ってもらいたいです。私も含め、すべての女性が社会で活躍できるように変われるはずです。そして『女性は世界の母』『女性は国会経済の骨格』という格言にあるように、男性男性と同等に女性リーダーとして社会に貢献できるはずです」
女性がほぼいなかった警察の世界にあえて足を踏み入れたヴォッティニーさんは、現在の仕事に満足している。カンボジア国民、そしてカンボジアに住む外国人の安全を保障し、また、カンボジア人、外国人を問わず労働面で搾取を受ける弱者を守るという深い意義があるからだ。
そんなヴォッティニーさんが将来の夢を熱く語ってくれた。「私は州警察署長になりたいと思っています。シェムリァップ州の歴史の中で、女性の州警察署長はまだいません」。州のジェンダーを推進するためにも、自らが身をもって女性リーダーとなりたいというヴォッティニーさんの努力はまだ続く。
1990年代の女性警察官の状況
キム・スレイティウさん(44)は、1993年から2004年まで警察官として働いていた。当時の女性の仕事環境について尋ねたところ、女性が社会で重要な仕事を持つことへの評価が低く、家事以外に仕事なんてできないという考えが強かったという。
「私が現職だったときは、掃き掃除や机を拭いたり、敷地内の留守番といった仕事しかさせてもらえませんでした。在職中一度も現場へ赴いたり出張に行ったりしたことはなかったんです」。
当時はスレイティウさんのほかにもう1人女性警察官がいたが、仕事の配置以外で差別を受けたことはないという。
「当時は、女性は弱いもの、男性と同じ仕事はできない、という認識が今よりも根深かったと思います。今は以前と変わってきたように感じます。女性も社会的な地位を持ち、重要な仕事も任せてもらえるようになりました。男性に負けず、頑張ってほしいです」
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