NyoNyum Magazine にて連載しているコラム「アンコール見聞録」
上智大学アジア人材養成研究センター現地責任者として、シェムリアップでアンコール建築に関する研究を行っている三輪悟さんが、アンコール建築の歴史や、遺跡の周りで営まれる生活、カンボジアにまつわるあれこれを綴ります。
今回は、「遺跡修復新時代」についてです。
遺跡修復新時代
新時代の幕開け
2014年頃からであろうか、内戦後にプノンペン王立芸術大学(RUFA)で学んだ専門家らが文化芸術省専門家として地方遺跡で外国人に頼らない独自の修復を大規模に行うようになった。
世界遺産登録されていない地域での文化遺産修復はユネスコの目が届かず、その進め方には賛否両論あ
る場合も多い。
しかしながら1908年より宗主国フランスが国内遺跡全般の管理を主導してきたカンボジアの歴史を振り返ると、外国からの卒業式であり自前修復の入学式とも感じる。
2019年からはアプサラ機構が管理するアンコール遺跡群においても外国チームとは一線を画する修復が盛んに行われるようになってきた。以下、4 つの事例を紹介する。
バンテアイチュマール遺跡
ここは文化省傘下のアンコール保存事務所のカバー範囲であり、2014年は南参道の修復が進んでいた。同年の西回廊は90年代末の大盗掘後のままの姿であった。
2018年になると、崩落石材の山であった西回廊に観音3体のレリーフが再構築され立ち並んでおり余りの様変わりに驚愕した。同時にカンボジア人専門家の本気度を感じた。
この遺跡では2021 年現在バライ西岸のテラス修復が大規模に進行中である。
スピアントップ
アンコール地域から北のピマイ遺跡(タイ)へ続く古道上にある現存する国内最長150mの古代橋である。
2015年頃から一部修復され、周囲の雑木が伐採されたことから、東面の全景を見ることができ大迫力である。
大プリアカンの四面大仏
かつて雨季になるとアクセスが難しく陸の孤島であった大プリアカンでは、長らく修復の手は入らなかった。2017年以前の大仏は1体の腰下のみがかろうじて残る状態だった。
2018年7月に訪問すると高さ10m近い大仏が四方を向いて立ち上がっており、またしても仰天したことが記憶に新しい。
ベンメリアのバライ中央の仏像
2021年3月にアプサラ機構はベンメリア遺跡の西にあるバライ中央の仏像修復を発表し、わずか3か月後には完成を報告した。
筆者が10数年前に訪れた際は、藪の中に石材が数個見えるだけで全体像を想像することは困難な状態
であった。
以上、紹介したのはごく一部の活動である。
アプサラ機構はコロナ禍に怯むことなく精力的に遺跡保護整備を進めている。今は若干粗削りな面があることは否めない。
現場での経験を通じて若い技術者たちが試行錯誤している。今後経験を積むことで更なる質の向上ができると確信する。
コロナ禍が終息した折には、是非アンコールへ行ってカンボジア人専門家たちの心意気を感じてみませんか。
(この記事は2021年8月に発行されたNyoNuym114号に掲載されたものを再掲しています。文中の情報は当時の情報です。)
上智大学アジア人材養成研究センター(シェムリァップ本部)助教
1997年10月よりシェムリアップ在住。専門はアンコール建築学。NyoNyum89号(2017年6月号発行)より遺跡やカンボジア生活にまつわる本コラム『アンコール見聞録』を連載。
前の記事:
過去の記事
7:死んだカエルと干しガエル
8:アンコールワットの矢ワニ
9:西参道正面北側のナーガ
10:石の穴 あいたり、消えたり
11:遺跡内は犬禁止
12:米価が3倍になる継続性
13:外国人の遺跡入場者数
14:仏人がジャワに学んだ修復手法
15:アンコールワットの睡蓮
16:大阪万博 旧カンボジア館
17:アプサラ機構創設25周年
18:プノンペンオリンピックスタジアム
19:新型コロナとアンコール観光
20:聖山クーレンでのキャンプ体験に想う
21:聖山クーレンでのキャンプ体験に想う(続編)
22:統計に見るウイズ・コロナのアンコール観光
23:スラスラン中央寺院(仮称)の復元・再構築
24:新型コロナ一年
25:紙幣の図柄をよく見ると
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