みなさんは、プノンペンの水を直接飲んだことがありますか?
アセアン諸国では水が直接飲めるのはシンガポールだけと言われてきましたが、実はカンボジアの首都プノンペンの水は直接飲める水質基準に達しているんです。
長い内戦で破壊しつくされたカンボジアのインフラ。
その中でも人々の生活に欠かせない水をすべての人たちに届ける。
その思いを実現させようと、カンボジア・日本が一丸となって復興・開発に取り組んできました。
その軌跡を追います!
「きれいな水」をみんなに届けたい
水は命の源。当たり前のようにいつも私たちのそばにいて、時に脅威となりつつも、その恩恵を受けて人類は発展してきました。しかし、世界中にはまだ「きれいな水」を得られない人が21 億人(約4 人に1 人)いると言われています。ここカンボジアでも「きれいな水へのアクセス」は、国家の最重要課題として位置づけられているんです。
国連が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」では、17 のゴールの中の1つとして、「安全な水とトイレを世界中に」が定められている。カンボジアでは、「国家戦略開発計画(National Strategic Development Plan)」で安全な水へのアクセスを向上させることを国家目標として掲げており、SDGs 達成に向けての取り組みがスタートしている。
この取り組みの先駆者として、プノンペンの水が注目される。「プノンペンの奇跡」と呼ばれるプノンペンの「安全な水」の実現は、さまざまな苦労を経て達成された。それは、日本をはじめとする国際援助によるインフラ整備、そして北九州市上下水道局の20 年にわたる協力の賜物だ。何よりも、当事者であるカンボジアの水道に関わる人々の熱意があってこそのこと。その歴史を作ったプノンペン水道公社(PPWSA)で陣頭指揮を執ったアェク・ソンチャン前PPWSA 総裁は、2006年にアジアのノーベル賞といわれる「ラモン・マグサイサイ賞」を受賞。また、PPWSA は2010 年に世界の優れた水管理への取り組みを顕彰する「ストックホルム産業水大賞」に選ばれている。
第1章 カンボジア現代水道史へのかかわり
長い内戦の時代を経て、カンボジアが復興に向けて動き出した1993 年。当時はあらゆるインフラが破壊され、ライフラインである水道も被害を受けてボロボロだった。プノンペンのプンプレック浄水場からの給水は1 日に10 時間程度で市内40%にしか及ばず、管路も老朽化していた。蛇口をひねれば濁ったような水が出てきて、白い衣服を洗濯すると生成り色に変わっていく。
水が届かない地域では、水の入った大きなドラム缶を載せたリヤカーを大人や子どもが運んでくる。その水を、家の軒先のかめや水場のコンクリート製の水槽に入れて、柄杓で少しずつ大切にすくいながら洗濯物や食器洗い、水浴びをしていた。雨期になると、雨どいの下に大きなたらいやバケツを置いて水を溜めたり、はたまたシャンプーやせっけんを手にして天然のシャワーで頭や体を洗ったり。なかには市の水道管にこっそり給水管をつないで「盗水」をする人たちもいた…。そんな生活が「当たり前」だった。
この状況を改善しようと日本やフランス、世界銀行、アジア開発銀行などによるインフラ復興支援が動き出した。プンプレック浄水場の緊急改修、水道管の更新工事がスタートし、それに伴いその施設を運営する仕組みや、維持・管理する「ひと」づくりが必要となっていく。そこに名乗りを上げたのが日本の地方自治体である北九州市だ。1999 年から市の職員をPPWSA に派遣して、現場の「需要」を把握しながら、日本にできることを提案していった。
派遣第1 号となったのが、北九州市上下水道局の久保田和也さん。当時のカンボジアといえば、内戦、地雷、HIV、銃の蔓延といった「危険」というイメージしかなかった。そんな過酷な状況に果敢にも単身乗り込んだ技術畑の生粋の水道マンだ。言葉の違い、生活様式の違い、働き方の違いに苦労しながらも、カンボジアの水道マンたちの「きれいな水をみんなに届けたい」という熱い思いに感動し、悪戦苦闘の日々を送った。
つづく・・・
【北九州市・カンボジア協力20周年記念特別企画②】北九州市は何をしてきたのか?
豆知識① 持続可能な開発目標”SDGs”(Sustainable Development Goals)
2001 年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015 年9 月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030 アジェンダ」にて記載された、2016 年から2030 年までの国際目標のこと。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169 のターゲットから構成され、地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っている。SDGs は開発途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本としても積極的に取り組んでいる。(外務省HP より)
豆知識② 「プノンペンの軌跡」
プノンペン水道公社(PPWSA)は、「無収水量率(配水したのに漏水などのために水道料金を徴収できない水の割合)」を内戦終結直後の72%(1993 年)から8%(2003 年)に劇的に改善し、また2005 年5月には蛇口から直接安全に水を飲める「飲用可能宣言」を行った。その驚くべき成果から、「プノンペンの奇跡」と称賛されている。この偉業はPPWSA と日本やフランスなどの国際支援により10 年以上かけて達成したもので、JICA の書籍「プロジェクト・ヒストリー」シリーズ第13 弾『プノンペンの奇跡 世界を驚かせたカンボジアの水道改革』として刊行されている。
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