現在カンボジア国内で配布中のカンボジア生活情報誌NyoNyum118号の特集では、「カンボジア最新ペット事情」について紹介しましたが、Web版も公開します。
「カンボジア最新ペット事情」
コロナ禍で生活や行動に制限がある中でも、プノンペンの街ではペットを連れた飼い主が公園などの公共の場を歩いたり、バイクや車に乗っているのを見かけます。
夜間外出禁止、集会や飲食店営業時間の制限、そしてロックダウンといった数々の措置が取られてきたが、プノンペンのペットをめぐる環境にはどのような影響があったのでしょう?
元来、クメール社会には古くからペットを飼育する文化があります。じゃれて遊ぶということだけでなく、猫や犬は家を守るという考えも。犬が番犬として重宝されるのはもちろん、猫はネズミから食糧を守ってくれるのです。
経済が発展し、人々の生活が多様化する中、ペットに対する意識も変わりつつあります。血統書付きの犬や猫を外国から取り寄せたり、ペットを「家族」として迎え入れ、大切に育てる人も出てきているよう。これに合わせて、動物の保護や動物にまつわるサービスも多様化の傾向がみられます。
今回の特集では、昔ながらのお寺での野良犬、野良猫の世話はもとより、動物病院、トリマー、ペット・ペットグッズショップ、動物愛護といった団体まで、さまざまな角度から「ペット」を徹底研究してみました!
犬・猫たちもきっと感謝してるはず
人間に可愛がられる動物がいる一方で、いじめられて傷ついたり、事故で障害を負ってしまったり、身寄りなく街をさまよう動物たちもいます。そんな動物たちを助けたいと、さまざまな人が立ち上がっています。また、カンボジア社会では古くからお寺が身寄りのない動物たち受け入れ、養うという機能もあります。
困っている犬や猫に保護の手を / PPAWS
プノンペンの街のあちこちで身寄りのない犬や猫を見かけると感じていたある外国人教師が、自らの資金で動物たちを保護し治療する活動を2012 年に始めました。年々多くなる野良犬・猫。個人でこの活動は続けられないと、2014 年にPhnom Penh Animal Welfare Society(PPAWS)を立ち上げることに。これまでに2,000 匹以上の犬や猫を保護してきたその活動の内容を伺いました。
事業概要を教えてください。
保護した犬や猫の治療のための動物病院の運営と、啓蒙活動、新しい飼い主のマッチングが主な事業です。収入源はその動物病院からと外国からの支援もいただいています。保護する動物は、住民から弱っている犬や猫がいると連絡を受けたり、お寺を回って保護の必要がある思う動物がいたら引き取っています。
主にどのような動物を保護していますか?
野良犬・猫だけでなく、ペットの治療も受け付けています。野良犬・猫に関しては、住民からの通報で弱っている犬や猫を確認し、連れ帰って治療・保護をします。その間にその動物の情報を発信して、将来的に飼ってもよいと申し出てくださる方と連絡を取り合います。
お寺やコミュニティーとの連携について教えてください。
スタッフがプノンペンや地方のお寺を回って、お寺に住む動物たちの病気の確認、ワクチン接種、治療を行っています。学校での教育・啓もう活動も考えていますが、まだ具体的な活動ができていません。ただ、私立学校で子供たちへの課題として、私たちのクリニックで動物保護について学ぶという活動をしているところもあります。そのほかは、住民向けの小冊子を配っています。
活動を通じて、カンボジア人のペットに対する意識の変化を感じますか?
大きく変わったと思います。以前は、啓蒙活動の中でワクチン接種や検診、去勢手術などの必要性を伝えてきましたが反応は薄かったです。お寺でも去勢手術には大きな反発がありました。でも、お寺や街中に捨てられる動物がどんどん増えて、寺院ではワクチンや病気の検診、去勢に対する理解が大きく深まりました。住民のみなさんも、以前は犬は番犬だからと何のケアもしていませんでしたが、自分たちの家族のように飼う意識が芽生え、積極的にワクチンや去勢の相談に来てくださるようになりました。
申し出があればすぐに引き渡すのですか?
その方が本当に自分のペットとして飼いたいのかどうかを見極めるのが重要です。どこかに売ろうとしていないか、食用として求めていないかどうかを、質問票を用意して確認させてもらいます。きちんとした生活環境が整っており、ペットとして確かに飼ってくれると確信した時点で引き渡しますが、数カ月に一度家庭訪問もさせていただいています。家庭訪問で当初の条件と違っていれば、その動物を再び私たちのもとに引き取ってきます。
ニョニュム読者にメッセージをお願いします。
私たちのクリニックはペットの検診や治療もできますので、関心のある方はどうぞいらしてください。ここで得た資金は、保護動物のエサやワクチン、治療に役立てさせていただいています。
PPAWS 情報
住所:#189, St.37BT, Phnom Penh
TEL:078-611-289
Facebook:@PhnomPenhAnimalWelfareSociety
時間:8:00AM-12:00PM, 2:00PM-6:00PM(火曜のみ夜7 時まで)
料金;診察内容次第(有料の動物病院あり)
命ある限り生きてほしい / Ministry of Cat Rescue Cat Cafe & Adoption Center
捨てられた猫を保護するMinistry of Cat という猫カフェが2018年にオープンしました。ロシアンマーケットから西に400mほどのところにあるこの猫カフェ、誰がどんな目的で運営しているのでしょうか。
Ministry of Cat は、オーストラリア人女性のジョージア・マーフィー(33)さんが捨てられた猫を保護するために立ち上げた猫カフェ。一般に開放しており、清潔感のある店内では保護されている猫たちと戯れながら、コーヒーやベジタリアンフードを楽しむことができる。
ジョージアさんによると、猫好きでビジネスパートナーのスペイン人が日本や中国を訪れた際に、猫カ
フェや犬カフェの存在を知ったそう。しかし一方で、カンボジア在住7年の彼らは多くの猫や犬が捨てられ行き場がなくなっている様子を見ていた。そこで、猫カフェと、捨て猫の保護を兼ね備えた店をオープンすることにした。
保護した猫はドイツ人が代表を務める動物保護団体「Animal Rescue Cambodia」の協力で治療やワクチン接種をしてもらい、健康になった猫をカフェで育て、飼い主として名乗り出てくれるお客様に引き渡している。
「カフェに来てくださる方がお店の猫をもらい受けてくれれば、私たちは病院から次の猫を預かることができ、新たな飼い主とのマッチングができます」
「カフェをオープンして4 年目になります。最近はカンボジア人のお客様が多く見られます。少しずつ店に対する信頼と支持が広がっているのを感じます。カンボジアに来た当時は、カンボジア人の猫や犬に対する意識はあまり高くなかったと思います。でも、カンボジアの猫はとても賢く、人懐っこいし、人の言うことを聞いてくれます。私たちのカフェでカンボジアの捨て猫と多くの人が触れ合い、ペットを愛する文化が広がればうれしいです」とジョージアさん。
普通の猫カフェとは異なり、入店料はとっていない。まずはコーヒーを楽しむという目的でふらっと立ち寄ってみるのもいいかもしれない。
Ministry of Cat 店舗情報
住所:#5, St.442, Toul Tompong 2, Phnom Penh
TEL:012-369-253
Facebook:@ministryofcat
時間:9:00AM-6:30PM (月曜定休)
入店料:無料
お寺は命のよりどころ
お寺の境内を犬や猫が自由気ままに歩き回っている様子を見たことがあるでしょうか? 野良犬・猫たちは僧侶やアーチャー(司祭)、寺のおじいさんやおばあさんからエサをもらい、命をつないでいます。お寺ではこういう動物たちをどのような姿勢で受け入れているのでしょうか。プノンペンの寺院・ワットコーのアーチャーの1 人に話を伺いました。
マさん(55)はワットコーのアーチャー(司祭)。仏教寺院と動物の関係についてこんな風に語ってくれた。「お寺は教育の場であり、静寂の中で人々の心に教えをもたらす場です。どのような人でもお寺
は受け入れます。たとえば、心や精神の病を抱えた人、痴呆などの症状がある人、そして身寄りのない人をお寺は差別なく受け入れて、その方々が心の平穏を取り戻せるように指導します」
一方、お寺にやってくる動物たちについては、「彼らがお寺に来る理由はいろいろありますよ。食事の世話ができなくなった飼い主もいれば、お寺に寄進したいと連れてくる人、人間にいじめられて傷ついて自ら迷い込んでくる犬・猫もいます。犬・猫だけでなく、カメ、魚、鶏、豚を連れてくる人もいるんですよ。そして飼い主に災いをもたらすと信じられている三本足の動物(4本のうち3本の色が同じで、1本だけ色が違う)を、どこに捨てたらいいかわからない、といって連れてくる人もいます」とマさ
んは語る。
さらには、願掛けをして願いが叶い、願掛けの際に約束したからと動物を連れてきたり、夢で飼っている動物を寺に寄進しろと言われた、という理由もあるのだという。
寺にやってきた動物たちの世話は誰がしているのだろうか。マさんによると、動物たちは檻に入れられることもなく、自由に境内を往来している。僧侶が寄進された料理をいただいた後に、残ったご飯を動物たちに与え、寺に従事するおじいさんやおばあさんたちが掃除をしてくれるのだ。
最近では、寺に住み着く動物の数も減ってきているという。お寺にいる動物たちを見て家に連れて帰りたいという人が多いのだ。愛らしい犬や猫はすぐに引き取り手が見つかり、身なりがあまりきれいでなかったり病気を持っているような動物が寺に残る。できることをできる範囲で。殺生をせずに生きとし生けるものに対する慈悲に満ちた生活がお寺にはある。
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