今回は、いよいよ開催が迫ったSEA Games 2023についての特集をWebでも紹介します。
「開催迫る!SEA Games 2023 in Cambodia~奮闘するカンボジア人選手たちのトレーニング記録~」
来たる5月にカンボジアでSEA Games(東南アジア競技大会)が初めて開催されることをご存知でしょうか。
準備に向けて政府が発足したSEA Games実 行 委 員 会(CAMSOC;Cambodian SEA Games Organizing Committee)を中心に、さまざまな準備がコツコツと進められています。
1959年の第1回大会から64年目となる2023年、カンボジア政府がようやく自力で開催を主催するに至りました。そして、史上初めて自国開催となったカンボジアの選手たちは、誇りを胸にトレーニングに取り組んでいます。
間近に迫った大会当日に向けて、コツコツと頑張っている選手やコーチ、支援団体の様子、そして SEA Gamesにまつわるあれこれをお届けします !
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ブレイクダンスとの出会いで人生が変わった。不遇な環境の子供たちのロールモデルになりたい
「え、カンボジアにブレイクダンスの選手がいるの?」。そう思う人が多いかもしれないこの競技。今回のSEA Games 2023の正式種目となっています。
主催国であるカンボジアが競技として採用したのだから、カンボジア人選手がいるはず。そう思って調べてみると、SEA Gamesでのメダルを目指すカンボジア人選手と、それを後押しする日本人がいることがわかりました。
3月に大阪で合宿をしているという話を聞きつけ、現地で話をうかがいました。
きっかけは10年前。日本でダンススクールやイベント運営などを事業として展開する D.O.D. 株式会社がカンボジアで学校を建設したことだった。
以来、代表取締役社長の岩花玄さんが現地で培ってきた人脈とカンボジオリンピック委員会幹部との出会いにより、カンボジアダンススポーツ連盟と協定を締結し、日本人をカンボジア代表監督として送ることを約束した。
その約束を持って日本に戻り、2020年にカンボジアで公演を行ったことがあるブレイクダンスチーム「MORTAL COMBAT(モータルコンバット)」に協力を求めた。
代表の金城隼人さんは「若いダンサーたちの力になれるなら」と、代表監督就任を了承した。実は3年前のこの時に、金城さんらは今回カンボジア代表選手として抜擢された若者たちに出会っていた。
D.O.D 株式会社と MORTAL COMBAT がそれぞれカンボジアに刻んだ「点」と「点」が「線」となってつながった瞬間だった。
一方のカンボジア選手たち。彼らはプノンペン郊外のスラム街にあるNGO「Tiny Toones Cambodia」で子供たちの指導を担当する職員たちだ。
このNGOは、タイの難民キャンプで生まれ、ロサンゼルスで育ち、ギャングのメンバーとなり、カンボジアに強制送還されたトゥイ・ソビルさん(通称 KK)によって、ストリートチルドレンのために創立された。
ブレイクダンス、音楽、英語、クメール語などの教室を開き、薬物などの非行に走りやすい環境にいる子供たちに、創造性とアイデンティティーを培う場を提供している。
今回大阪での特訓に参加したBボーイ(ブレイクダンスを踊る男性のこと)のスリックさん(30)は、「ブレイクダンス歴は10年です。自分はもともとストリートチルドレンでした。食事を提供してくれるNGOがあるというので通い始めたら、そこでダンスを教えてくれるというのでやってみたんです。それから夢中になり今に至るわけですが、この出会いがなければ真っ当な生活はなかったと思います」と語る。
現在は施設で指導者としてブレイクダンスを子供たちに教えているというスリックさん。今回選手として抜擢されたことについて振り返った。
「これまではNGOの活動の中で国外でセミナーを開いたり公演をすることはありましたが、国際大会で選手として演技するのは初めてです。国の代表に選ばれたのは本当に誇りです。カンボジアではブレイクダンスはまだ認知されていないので、今回の大会で多くの人にこの楽しさを知ってもらいたいです」
スリックさんの他に、Bボーイのスーサイドさん(31)、バードさん(20)、Bガール(ブレイクダンスを踊る女性のこと)のナイラさん(19)も来日。
彼らは1月中旬から4月まで日本に滞在し、MORTAL COMBATのスタジオで強化訓練を受けながら、数々のコンテスト、競技会に出場している。
当初、男女1名ずつが最終選考でSEA Games2023にエントリーできることになっていたが、枠が広がり男女2名ずつが出場できることになった。
このため、カンボジアで遠隔訓練を行っているBガールのラタさん(22)も4月1日から1ヶ月間、急遽招へいされることになったという。
「彼らに出会ったときは、レべルはそれほど高くないという評価でした。その中で光るものを持っていると思ったのが、今回選抜した選手たちです。彼らには、生い立ちや育った環境はダンスには関係ない、うまくなろうと思えばどこでもうまくなる、ということを伝えています。当初はこちらが指示したことをただやる『受け身』の姿勢が目についていましたが、今では自分で工夫したところをこれでいいかと聞きに来て、独自のダンスができるようになりました」と語る金城さん。
ベトナム、シンガポール、タイなどに強豪がいるASEANブレイクダンス界で勝ち抜くには、「とにかく練習。練習以上のことは当日には出せないですから。どれだけ練習できるかにかかっています。そういう意味では日本で、このスタジオで、とにかくダンス漬けの日々を送っている彼らには、自信を持って大会に臨んでもらいたいと思っています」と語る。
「一つ一つの動きを的確に行うのがとても難しいです。日本人の先生に指摘を受けて改善しているところです。一緒に来ている仲間もいろいろ指摘してくれます。最終的にSEA Gamesの出場選手に選ばれるよう頑張ります」と語るのは最年少のバードさん。大きな大会での競技経験はないが、目を輝かせて日本人監督の指導を受けているのが印象的だった。
スーサイドさんは「10年前からブレイクダンスをしていましたが、6年くらい前に結婚してから家計を支えるためダンスからは離れていました。カンボジアのSEA Gamesでブレイクダンスが正式種目になったと聞き、妻の後押しがあり再開したんです。数年間ブランクがあり、最初は身体が思うように動きませんでしたが、今は感覚を取り戻しています。日本で毎日特訓を受けていますが、すべてが新しく、レベルアップしたと実感しています。正式に出場選手として採用されるよう、最後までこの合宿をやり遂げます」と語ってくれた。
厳しい訓練を経た結果、スリックさん、バードさんが今回のSEA Gamesでカンボジア代表として本選で戦うことが決定したという。
ブレイクダンスは 2024年のパリ五輪の実施種目に正式採用されている。
今回のSEA Games 2023で自信をつけて、さらに高いレベルを目指す新たなダンサーたちが刻む「点」が生まれることを期待して、大会での彼らのパフォーマンスを見守っていきたい。
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