現在、カンボジア国内で配布中のカンボジア生活情報誌NyoNyum125号の特集のWeb版です。
「工場で働くということ~プノンペン周辺工場労働者の職と生活の現状あれこれ~」
縫製業やアパレル業などで約90万人の労働者の仕事を生み出すカンボジア。全国1326の縫製工場のうち、727の工場がプノンペンにあり、約34万人の労働者が従事しています。
そんな首都プノンペン郊外の、特にチャオムチャウ町 (プノンペン国際空港の西南部エリア)には工場エリアが広がっています。若い労働者向けの借家や団地もあり、縫製業などに従事する工場労働者が生活しています。そのため、この地区にある工場周辺には日常生活に欠かせない品々や飲食店などがすらりと並び、いつも人々でにぎわっています。
主に地方から集まってくる労働者たちは、この環境でどんな生活を営んでいるのでしょうか。その実態の一角をご紹介します。
ベテラン工員が見る「工場労働者の実情」
プラック・サニーさん(50)は、Hung Wah という縫製工場の縫製部門長。トゥクトゥクドライバーの夫とともに 6 人の子供を育ててきたサニーさんは、2000 年から縫製業に従事しています。工場労働者の生き字引的な存在で、業界全体や働く人たちの変化を肌で感じてきたそう。コツコツと仕事をこなしてキャリアアップし、一般工員から部門長になる中での経験を聞かせていただきました。
工員の年齢層は若いですよね。田舎から出てきた独身の若者たちは、仕事以外でプノンペンでの生活をどのように楽しんでいるのでしょうか。
新型コロナの影響で多くの工員の生活は不安定になってしまいましたが、コロナ前の景気が良い時は若い工員たちは思い思いに余暇を楽しんでいましたよ。週末になると王宮周辺に遊びに行って、手頃な土鍋スープ屋で鍋を囲み、みんなでワイワイする人たちが多かったです。
また、このヴェンスレーン通り沿い周辺にもお手頃価格の飲み屋や牛の丸焼きバーベキュー屋などがあるので、夕方の仕事帰りに疲れやストレスを発散するために飲みに行く人もいます。でも節約したい人たちは、近所の人や友達を呼んでアパートで焼肉をしたり、手作りの土鍋スープを食べながらビールを飲んだり、カラオケをして過ごしたりですね。
工員のお金の使い方は?
私の工場にいる若者労働者は真面目な人が多いですね。そもそも田舎から出稼ぎに来て必死に頑張っているので、稼いだお金を貯金したり、親へ送ったりしている人が大多数です。自分のために使うとすれば、服や携帯電話を買う場合でしょうか。Facebook やドラマだったり面白い動画を見るために、インターネット代にはお金は使っていますね。工場周辺にあるお店の中には、手元にお金がないときはツケや月賦払いに対応してくれるところもあるようです。
服や靴、調味料や日用雑貨までその対象なので、給料日までにお金が不足しがちな工員は助かっています。田舎にいる家族が経済的に余裕がある人なら、親への仕送りを考える必要がないので普段から飲みに行ったりお洒落をしたり自分のためにお金を使うこともありますが、そういう人は私の周りには滅多にいませんね。
昔と比べて今は若い工員が田舎へ送金するのは減ったのではないですか。
あまり変わらないかと思います。ほとんどの人が家族のために働いています。田舎で借金を抱える家族が子供を工場で働かせるというパターンはよくあります。貯金と親への仕送りのための苦労は昔も今もあまり変わりないと思いますね。
求人状況は今どうなっていますか。
以前とかなり違います。2016年以降は、仲介人が労働者から手数料を取って就職先を斡旋することが法律的に禁止となっています。また、応募者は縫製スキルのチェックを受ける必要があり、レベルに応じて給料と採否が決められます。縫製スキルを育成する民間団体(訓練学校)があるので、縫製工場に勤めたい人は訓練を受けてから応募する人が多いです。
縫製業の現状は?
この数年の新型コロナと EBA(武器以外すべてに対する特恵関税制度)枠の撤廃で閉鎖する工場が次から次に出て、経営に問題を抱える工場もまだたくさんあり、工員である私たちは収入が不安定な状況に陥っています。私もみんなと同様、残業どころか通常の仕事量も少なくなり、給料削減にもつながっています。
そのため、この数年は毎月の給料がほぼ生活費でなくなるぎりぎりの状態で何とか暮らしています。残業手当と勤続年数で少しずつ上がる昇給に期待してこれまで働いてきました。工員である我々は本当に外部要因に左右されやすい環境で働いているんだなと思います。
縫製工場に就職したい若者は毎年多いと思いますが、志望動機はどのようなものが多いでしょう。
まず女性の割合が高く、さらに家庭の経済的負担を軽減するために上京してくる人が多いです。最近は経済的に困っているわけではないけれど、田舎を出て都会で生活したいとからという若者もいるようですが、割合としては少ないと思います。
主な動機は、家庭が貧しく兄弟も多い、親が借金を抱えて自身は中学校を中退しなければならなくなった、本人自らの意思で学校を中退して上京してきた、などでしょうか。この縫製工場で私が見る限りでは、多くの若者は稼いだお金を田舎にいる親に送金するために働いているかと思います。
みんなの働く意欲は?
みんな意欲は高いですね。この工場ではスキルアップが評価されるので、向上していく前提で働いてもらっています。向上心で頑張る人もいれば、周囲に負けたくないという気持ちで頑張る人もいます。特に女性工員は上手な同僚を見て自分も負けられないと仕事に取り組んでいる人が多いですよ。
サニーさんの家族の話を教えてください。
私の夫はトゥクトゥクのドライバーをしています。元々は新型コロナが広まる直前に、自宅近くの民間インターナショナルスクールに通う子供たちの送迎の仕事をしようと銀行でローンを組んで車を購入したんです。ですが、そのビジネスが始まって1年経つか経たないかというところで世の中がコロナとなり、学校も休校を余儀なくされました。
夫もローンの返済ができなくなり、かろうじて手元にあったお金でトゥクトゥクを購入し、トゥクトゥクドライバーとなりました。今はトゥクトゥクの収入で毎月のローン返済をしています。私の縫製工場での給料(約400ドル)で、食費、光熱費などが何とか賄えているという状態です。
長男も縫製工場の工員で、1年ほど前に同じ工場で働く女性と結婚しました。結婚してからしばらくは同居していましたが、勤務地の工場が遠くなったため、今はその近くで2人で部屋を借りて生活しています。次男も数ヶ月前に結婚し、今は同居しています。ですが、食事は別にしてそれぞれやりくりしています。三男は数年前に出家してお坊さんになりました。この子は勉強が好きで自らお坊さんになりたいと出家したんですよ。将来は僧侶として生きていくのだと思います。
残りの3人の子供はまだ扶養中。夫の仕事が安定したら、頑張って貯金をして家を新築したいと思っています。同時に下の3人の子供が結婚するまで面倒を見ないといけないので、それまで頑張らなければなりません。
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