NyoNyum Magazine にて連載しているコラム「アンコール見聞録」
上智大学アジア人材養成研究センター現地責任者として、シェムリアップでアンコール建築に関する研究を行っている三輪悟さんが、アンコール建築の歴史や、遺跡の周りで営まれる生活、カンボジアにまつわるあれこれを綴ります。
遺跡を上から見る
記録としての鳥瞰撮影(ヘリコプター)
アンコール遺跡を記録として鳥瞰撮影するためには、かつてはヘリを使用する以外に方法はなかった。しかしながら日常的な調査や記録目的としてはヘリ空撮は高額すぎるため、通常の遺跡調査においては高台を利用するか、脚立や撮影台を組んで撮影するのが現実的な選択肢だった。筆者が初めてヘリに乗りアンコールワットを空撮したのは 2000年のことであった。丁度遺跡上空を飛ぶ商業フライトが始まったのはこの頃だったと記憶している。その後アンコールワット前のバルーン観光が始まったのは 2003年であった。ヘリに乗りアンコールワットの周囲を堀が囲む姿を実見したときの感激は大きなものがあった。その後 2010年、2023年にもヘリ空撮を実施している。
ドローンの登場
今では空撮と言えば手軽なドローン撮影が常識となっているが、一般向けドローンが登場したのは2010年代初頭のことであり、まだその歴史は10年余りと新しい。ドローンとカメラの性能は飛躍的な向上を遂げ、廉価な機器も登場し広く普及するようになった。
ドローンの功罪
TV 番組においては、昨今の空撮のほとんどがドローンを使用して撮影しているのではないだろうか。上空から見ると、全体が一目瞭然でわかりやすく、非日常感を演出しやすいことから多用される傾向がある。ヘリの飛行が許可されない空域(アンコールワットの真上など)を飛ぶことができる利点は非常に大きい。しかし時に安易に多用しすぎる傾向に警鐘を鳴らしたくもなったりする。昨年始まったロシアによるウクライナ侵攻(戦争)においては、偵察や攻撃において広義のドローンが闘いの在り方を変えつつあり、「ドローン」の語義はさらに広がりを見せる。
遺跡の見方
ヘリで上空から遺跡を見下ろすと、大変な高揚感があり素晴らしい経験となることは間違いない。しかしながら、正直に申し上げると「究極的には人間の立ち位置(=目の高さ)で見る見え方がベストなのではないか?」という漠然とした感覚があり、自問自答を今も繰り返している。当面は地上と空の相互を行き来しつつ、最後に先のベストな方向に収束するのではないか?と感じている。唐突ながら、『天空の城ラピュタ』のシータ姫の言葉「土から離れては生きられないのよ」という文言がふと脳裏に浮かんだ。自らの感覚の 行く末 を我ながら楽しみにしている。
(この記事は2023年8月に発行されたNyoNuym125号に掲載されたものを再掲しています。文中の情報は当時の情報です。)
上智大学アジア人材養成研究センター(シェムリアップ本部)助教
1997年10月よりシェムリアップ在住。専門はアンコール建築学。NyoNyum89号(2017年6月号発行)より遺跡やカンボジア生活にまつわる本コラム『アンコール見聞録』を連載。
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過去の記事
7:死んだカエルと干しガエル
8:アンコールワットの矢ワニ
9:西参道正面北側のナーガ
10:石の穴 あいたり、消えたり
11:遺跡内は犬禁止
12:米価が3倍になる継続性
13:外国人の遺跡入場者数
14:仏人がジャワに学んだ修復手法
15:アンコールワットの睡蓮
16:大阪万博 旧カンボジア館
17:アプサラ機構創設25周年
18:プノンペンオリンピックスタジアム
19:新型コロナとアンコール観光
20:聖山クーレンでのキャンプ体験に想う
21:聖山クーレンでのキャンプ体験に想う(続編)
22:統計に見るウイズ・コロナのアンコール観光
23:スラスラン中央寺院(仮称)の復元・再構築
24:新型コロナ一年
25:紙幣の図柄をよく見ると
26:遺跡修復新時代
27:レッドゾーン指定でついに修復作業がストップ
28:観光の再開
29:変わるもの、変わらないもの
30:クメール正月再び♪(2022)
31:遺跡を空から見てみると
32:統計に見るコロナ禍からのアンコール観光回復度
33:在住外国人への遺跡無料パス発行と世界文化遺産登録30周年
34:遺跡写真館
35:アンコール遺跡群の世界遺産登録30周年記念イベント報告
36:東南アジア競技大会(Southeast Asian Games = Sea Games)聖火リレー
37:東南アジア競技大会(Southeast Asian Games=SEA Games)マラソン
38:遺跡を上から見る
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