現在、カンボジア国内で配布中のカンボジア生活情報誌NyoNyum123号の特集のWeb版です。
「コロナ禍で変わりゆく日本語観光ガイド」
観光産業で発展してきたシェムリァップ。観光にまつわる多くの仕事と職業が生まれてきました。シェムリァップだけでも、英語、スペイン語、日本語、中国語、韓国語、ロシア語など、世界各国の言語に対応するガイドが約5000人もいます。英語と中国語に続き日本語ガイドは3番目に多く、その数は約800人。
新型コロナの流行から約3年の間に、観光ガイドの生活はもちろん、シェムリァップの観光ビジネスは大きな変化を余儀なくされました。仕事がなくなり生活のために、約3割のガイドが新しい仕事を求めてシェムリァップを離れたり、州内で建設業や農業、トラックのドライバーなどへと職を変えました。そして中には身に付けた日本語能力を活用して、新たな一歩を踏み出した人も。
今回の特集では、コロナ禍で変化した日本語観光ガイドをめぐる環境、そして今後のシェムリァップの観光ビジネスのあり方に迫ります。
コロナ前後のカンボジアの観光客数を見てみよう!
カンボジア観光省が出している「観光統計レポート」から、コロナ前とコロナ発生後の観光業への影響を見てみましょう。日本人観光客を含む外国人観光客が激減し、ガイドの仕事への影響がいかほどのものだったかがうかがえます。
外国人観光客数と観光収入
コロナ発生前まではカンボジアを訪れる外国人観光者数は毎年右肩上がりだった。コロナ直前の 2019年にはピークを迎えて約 661万人だったのが、コロナの影響で 2020年は5分の1ほどの130万 人、そ し て2021年には 19.6万人となった。
観光収入も、2019年に約49億2,000万ドルまで膨れ上がったのが 2020年は 10億 2,300万ドル、2021年は1億8,400万ドルとなった。ちなみに、2022年11月時点のデータによると、2022年の観光客数は約 191万4,000人と、回復の兆しが見え始めている。
月別外国人観光客数(2020-2022)
このグラフは 2020年から 2021年の外国人観光客数の月別推移であるが、2020年の4月時点で外国人観光客数がほぼ0にまで落ちたことがわかる。それ以降、引き 続いて 2021年になっても外国人観光客はほぼゼロ状態のが続く。しかし、2022年に入って徐々に観光客数が増えているのがわかる。
日本人観光客数
日本人観光客数は、2018年が約21万人、2019年が約20万7,600万人であったのが、このデータにあるように、2020年には4万1,257人、2021年は約2,000人となった。コロナ前世界各国の観光客の中で日本人観光客の数はトップ10に入っていたが、2021年からはトップ10に日本の文字が見られなくなった。
観光ガイドになるためには何をすればいいの?
カンボジア最大の観光地シェムリァップでは、観光ガイドを目指す若者が多い。観光ガイドになるには、まずは観光省が実施する養成コースの受講資格試験に合格しなければいけません。その内容はどんなものなのでしょう?
STEP1
観光ガイド養成コース受講募集のお知らせが出たら、受講資格試験の申し込みをする。お知らせはガイド増員の必要に応じて通常1~2年ごとに観光省から発表される。シェムリァップ州観光局や語学学校等に告知されるため、希望者は自らアンテナを張っておこう。
<受験資格>
高校卒業資格を有する者
<競争率>
第23回(2016年)のシェムリァップ地方観光ガイド養成コースの入試情報によると、10カ国語の言語を対象に、合計514人が受験し、うち180人が合格となった。
<試験>
観光省が定めた一般知識と専攻言語能力を図るための筆記試験、口頭面接試験。
・一般知識の筆記試験:カンボジアの観光産業や歴史や文化、地理など。
・専攻言語の筆記試験:専攻言語の読み書きの能力をはかる。
・専攻言語の口頭面接試験:専攻言語でカンボジアの歴史や文化、観光産業関連のことが問われるので、返答していく。
STEP2
試験に合格したら、観光省が定める約 3カ月間の観光ガイド養成コースを受けることができる。このコースの受講生は、カンボジアの歴史や美術、地理、観光産業、ホスピタリティ、緊急時の対応、プロの観光ガイドによる遺跡での案内の授業のほか、専攻言語の異文化理解など、観光に関連する科目を専門の講師から学ぶ。
<合格者>
卒業試験に合格すると、観光省が発行する「観光ガイド認定証明書」を取得。この認定証明書をもって、観光ライセンスが申請できる。晴れて観光ライセンスを取得したら、旅行会社に観光ガイドとしての就職活動を行う。実績があるほうが旅行会社の専属ガイドに採用されることが多いので、ライセンス取得後はまずフリーランスの観光ガイドになる者も少なくない。観光ガイドのライセンスは2年ごとに更新。
前述の情報は、たとえばシェムリァップ州で取得すれば同地のみでのガイド業の従事が許可される「地方観光ガイド」に適用。これとは別に「国家観光ガイド」のライセンスを取得したいなら、地方観光ガイド5年以上の経験を経て観光省が主催する「国家観光ガイド試験」を受け、3カ月程度の養成コースをさらに受講する必要がある。
この養成コースを卒業するためは、自身の関心のあるカンボジアの観光産業に関連するトピックを一つ選択し、論文を提出しなければならない。論文発表で合格した者には、「国家観光ガイド認定証明書」が観光省より発行される。
さらに、国家観光ガイドとして2~3年勤務した後に、国家観光ガイドの上級養成コースが受講できる。このコースでは、カンボジアの観光産業やアンコール遺跡群の考古学などについて深く研究することができるという。APSARA機構と観光省が共催するコースで、より洗練された観光ホスピタリティについて学ぶことも可能。
過去には、日本人の観光専門講師が招待され、短期コースで「日本のおもてなし文化」が学べたこともあったそうだ。ガイドとしてのキャリアアップの仕組みがいろいろとあることがわかる。
日本語観光ガイド協会会長インタビュー〜シェムリァップの日本語観光ガイドをめぐる環境はどうなる?~
語学の勉強、養成コースでの勉強をコツコツ行い、観光ガイドとしてのキャリアを積み上げてきたシェムリァップのガイドたち。コロナ禍で観光業が大打撃を受け、彼らの人生も大きく変わりました。そんな彼らは今、ガイドとしてのキャリアを、そして今後の観光業をどのように考えているのでしょうか。
イー・オルさん(42歳)
シェムリァップ州日本語観光ガイド協会会長のイー・オルさんは、幼い頃に UNTAC時代(1992年~ 1993年)を過ごし、多くの外国人がカンボジアで働くのを見て外国語の学習に興味を持った。当時シェムリァップには日本語学校や教材が乏しかったが、1990年代後半頃から多くの日本人観光客がアンコールワットを訪れるようになったため、日本語を生かして観光ガイドになろうと勉強した。
2001年に観光ガイドとしてのキャリアをスタートしたオルさんは、日本語でカンボジアのことを日本人に説明できるこの仕事を誇りに思っているという。カンボジアの歴史を学ぶのが好きで、2008年には日本語ガイドスピーチコンテストで優勝した。
コロナ終息が見えない中、シェムリァップを離れ、プノンペンで新しい就職先を得たオルさん。観光ガイドとしてのキャリアとプノンペンでの仕事や新生活について語ってくれた。
シェムリァップを訪れる日本人観光客にも変化
シェムリァップを訪れる日本人観光客の目当ては何と言っても世界遺産のアンコール遺跡だ。
「1990年代末の時点では、アンコールワットを観たくて訪れる日本人観光客数はまだ少数でしたが、2000年代に入ると日本人観光客数が一気に増加し、2014年には約21万5,000人の日本人が訪れており、これがピークでした。当時、たくさんの日本人観光客がアンコールワットに魅了され、カンボジアの歴史や遺跡について質問してくれたので、私たちも観光ガイドとして遺跡を案内することに喜びを感じていました。しかし、2016年以降遺跡より農村での生活や教育事情に興味を持つ観光客が増えていったように感じます」
変化したのは日本人観光客の好みだけではないというオルさん。
「2014年以降の数年間は、日本人観光客数は20万前後と安定していましたが、観光ガイドを必要とするお客様の数が大幅に減少したと感じていました。それはおそらく観光に必要な情報がインターネットに多くあり、個人でも見学できる環境になりつつあったからではないかと分析しています。また新人ガイドの数も増えて、競争が激しくなったことも一因だと思います」
シェムリァップを離れる決意
2020年4月頃には、コロナの影響で日本人に限らず世界各国からの観光客はほぼゼロにまで減少していった。観光ガイドの仕事をこのまま続けていたのでは生きていけないと思い、別の職業への転向を真剣に考え始めたというオルさん。
「コロナで打撃を受けた最初の頃は、転職をするなら故郷を離れてプノンペンへ移住するしかなく、その決心がつかずすぐにはガイドのキャリアを捨てることを決められませ んでした。そして、もう1年間は観光ガイドとして働き続けることにしました。結局のところ、家族を養うためにお金を稼がないといけないのと、プノンペンにいる知人から仕事の紹介も受けたため、2021年6月に家族を置いてプノンペンにある人材派遣会社でマネージャーの仕事に就きました」。
他のガイド仲間も、オンラインで日本語を教えたり、他の州やプノンペンに移住して日本企業で職を得た人もいれば、地元の病院や工場などで働く人も多くいるという。
観光ガイドとしてのキャリア
故郷を離れて出稼ぎをするガイドがいる中、多くがコロナ前のような観光客数に戻るなら、ガイドに復帰したいと思っているという。
「日本語観光ガイドは、日本の方にカンボジアを代表してあらゆる情報を発信する、言わば小さな外交官のような仕事だと思います。またこの仕事はお客様と旅の間中一緒に行動をともにするので、その期間を通して日本人と仲良くなれるし、案内するたびにいつも新鮮な気持ちになれます」
「今は技術が進歩し、観光ガイドは今後必要なくなるのではという心配の声も挙がっていますが、私は特に心配していません。これまでの経験で言うと、一部の日本人観光客、特に国外旅行に慣れた方々は、インターネットの情報を頼り、私たちのような専門的な観光ガイドを利用しないということはあります。ですが、中高年層の方々は、私たちのようなツアーガイドに依頼する傾向がまだあるので、需要はあると思うんです。でも、今後の観光省の方針や社会の動きにもアンテナを張っておく必要はありますね。将来より多くの IT 技術が活用されていくだろうし、それによって観光ガイドの需要も左右されるかもしれません」
そんな風に語るオルさんも、今、IT 技術の活用に関心を持っているという。進歩している IT 技術を利用して、今後カンボジアを訪れたいと思っている日本人観光客がさらに容易に現地の観光ガイドと直接コミュニケーションがとれるように、モバイルアプリを立ち上げたいというのだ。
「私たちは現代のテクノロジーから離れて暮らすことはできないと思います。ですから、観光サービスの一環として、シェムリァップで実績のある日本語ガイドの情報をアプリに入力観光ガイドとしてのキャリアし、日本からでも自ら現地のツアーガイドを選択できるようなオンラインサービスをやりたいんです。アンコール遺跡をいつでも楽しんでいただけるように、気軽で簡単に観光ガイドと日本人観光客をマッチングできるアプリケーションを開発したいです」
<オルさんへの観光ガイドの連絡>
Tel: 012 722 736
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シェムリァップ州日本語観光ガイド協会について
シェムリァップ州日本語観光ガイド協会は、会員となった日本語ガイドに観光省からの情報を発信したり、生活に困った日本語ガイドを支援したり、ガイドと観光省との良好な関係を維持するために2006年に設立された。会員の能力向上のためにシェムリァップ以外の遺跡群で研修旅行を実施したり、観光ガイドのライセンス更新の窓口としてのサービスも提供。現在、協会には約300人の会員がいる。
日本語ガイドスピーチコンテストに出るには?
・一般知識を問う筆記試験に合格すること。
・試験に合格したら、興味のあるトピックを選択してスピーチ原稿を作り、観光省と在カンボジア日
本大使館が共催で実施するスピーチコンテストで5分間のスピーチを行う。
※通常、5年ごとに開催されている。
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