オルセー市場の北側にはクメールの伝統薬草販売店が軒を連ねている。プノンペンでは近代(西洋)の薬局が数多くあるものの、クメールの市民が信頼する伝統薬草の存在がまだまだ濃くあるようだ。飲んでも体に害がなく、時間がやや掛かるが病気が治ると信じる都会の市民のみならず、各州から薬草を探し求める人々が少なくないと言う。古代から伝わってきた伝統医学に欠かせないクメールの薬草への信頼とその販売事情を紹介したい。
クメールの薬草を販売するところと言えば、プノンペン住民の誰もが思い浮かべるのがオールセーイ・マーケットの北部。そこには、あらゆる種類のクメール伝統薬草の販売店が集まり、プノンペン都内ばかりでなく、全国各州からの客が日々来店する姿が絶えることはない。各店の前や店内に入ると、生の薬草や加工済みの薬草など、多種多様なクメール薬草が並んでいる。店に立ち寄って買う人は、特に午前中の時間帯に多いという。
シェア・セインボパーさん(49)はオルセー市場の北側で約20年間クメールの伝統薬を販売している。扱っている薬草は主に、地方に住んでいる薬草師から注文を受けているという。「顧客はコンポンチャム州やシェムリアップ州など。全国のクル・クメールの方々に卸売しています」。セインボパーさんの店で扱っている薬草の品種は多い。同じ品種でも地域によって質の良い薬草が生育するのを知り、長きにわたって信頼をおいている地方の薬草採り業者から買い集めているという。「現在まで代々にわたり薬草に詳しい知識をもち薬草植物を採る経験を持つ人から、各州の薬草を買い取っています。例えば、胃・腸の薬はコンポンチュナン州から、鎮痛剤(ថ្នាំសសៃ)としての薬草はシアヌークビル周辺地域から採取したものを取り扱っています」。
セインボパーさんの店ではめまい、胃腸薬、産褥薬など一般の病気を治すと評判のある薬草も小売り用として扱っているが、薬用植物(薬草の原材料)を集めて卸売を専門として販売している。そして卸売のために、各州から採った様々な薬草の原材料を自宅の倉庫に保管している。顧客はプノンペンの住民だけでなく、主に地方に暮らしている他の薬草師が多いというセインボパーさん。「私のバイヤーのほとんどは地方から来た薬剤師で、自分なりのレシピで薬剤を造ったり、うちがレシピを開発した薬草をそのままを転売してくれたりしています。特に薬剤師としては薬草を調合薬として他の薬草といろいろと混ぜたりするため、一度に薬草の原料を何種類も、そして、数百キロという大量の単位で買いに来ることが一般的です」。
クメール伝統の薬草の処方が薬剤師それぞれの経験と患者の病状に合わせて調合するため、薬草師により薬草のレシピが違うという。
オールセーイ市場の北側にすらりと並んでいる薬草販売専門店を見ると、たくさんの種類の薬用植物が置いてあり、毎日客で賑わっている。セインボパーさんは、クメールの薬草の効果と存在について、次のように教えてくれた。「薬草は確かに効き目があるため、顧客または地方で転売するために買い求めに来る地方の薬草師が絶えないのです。クメール人が今でもクメール伝統薬を服用している理由としては、西洋の薬よりも安価で、古代からある伝統治療だと言う信頼があるからです。ただし、現在ではクメールの薬剤を販売する人は、保健省で研修を受けなければなりません」。
薬草を販売する前には、患者の病状を把握したうえでその病気に合った薬草のパッケージを渡す。セインボパーさんは、注意事項も慎重に告げなければならないという。「薬草のパッケージには使い方の説明が書いてありますが、服用方法と投薬中の絶食方法についても、必ず口頭で追加説明をします」。クメール薬剤師は、自分自身の長年の経験または先祖が教えてくれた投薬治療方を基に薬草のレシピを出すものもいれば、保健省の研修を受けて薬剤師として認められたものもいる。また、有名な薬剤師だと自分のブランド名で処方した薬草をパケージにして卸売したり、自宅か自分のお店で販売をしたりしているのが一般的である。
クメール薬草が今もなお使用し続けられているのは、西洋の薬や治療法と比べて比較的に安価であるため、クメール人の間で現在でも人気があるのだという。また、クメール薬草の効果に対する昔からの信頼と理解は今も一般のクメール人の常識の中に根付いている、使用が絶えていないのだ。薬草の効果が良い病名として一般に知られているのは、痔薬や小児薬、風邪薬、婦人薬、胃腸薬などだという。
産褥期の女性に大人気!~個人サウナ用薬草~
サウナ用薬草:産褥期に使用され、次のような薬草の植物が含まれている。
材料:レモングラス、アーモンドの皮、ライムの葉、ウコン、コブみかんの葉っぱ、タープーンの葉、ポンレイ、ポーニョムの葉、ポムセンの葉、わらの根など。
使用法:一パックを鍋いっぱい沸騰させ、朝晩一日二回サウナする。
効果:目まい、頭痛、風邪、特に産褥期の女性にお勧め!
クメール薬草の利用者の声:
出産後クメール産褥薬を使ったシェムリァップ在住のレスメィさん(30):「出産直後はお腹にしわがたくさん出たので、そのしわと体内に残った毒素を出すために、薬草を使って自宅でサウナシートでスポンをやっていました。スポンサウナで流した汗で気持ちもすっきりするし、ウコンパウダー液も肌に塗ったりして肌を綺麗にすることもしました。出産直後は週に3,4回よくやっていました。やって良かったです!」
スヴァイリェン州出身で解熱剤として日々木の薬草をお茶として飲んでいるメィ・サレインさん(68):「24歳で一人目の長男を出産した時から煮込んだ木の薬草を飲むようになりました。出産直後の母乳がたくさん出るように周りの人から勧められました。飲むと、本当に母乳がたくさん出ていました。出産後から煮込んだその木の薬草を飲むことにより出産後の体調も良くなりました。飲み方としては好き勝手にお茶のように飲み、子供が大きくなるまで飲んでいました。それ以来、現在まで煮込んだ木の薬草を飲むのが習慣になっていましたが、この数年間は近所の市場に週に何回かよく来ていた薬草販売のお婆さんがいなかったので、しばらくは飲んでいませんでした。でも、この間、体を冷やしてくれる木の薬草販売者が市場に来たのを見たので、その木の薬草を買って、今、家族で毎日飲んでいます。」
薬草酒
鎮痛薬(ថ្នាំសសៃ)としてよく知られているクメールの薬草酒。約30年前からクル・クメールとして名が知られているプロム・サロンさんは薬草酒を作って販売している。プノンペン市内のカンダール市場周辺にお店を開いているが、午後5時ごろになると、若い労働者や建設作業員のような男性たちが集まって、薬草酒を楽しんでいる小さなクメール風の居酒屋も営んでいる。薬草酒は体力をよくする効果があるという。「薬草酒を飲むと、体内の関節などの鎮痛に効果があるうえに、便通を正常化させます。飲んだ後の頭痛の症状もありません。また、仕事で体がだるい時に飲むと、夜よく眠れたり、疲れを取ってくれるので、昔から評判が良いんです。夕方食後に飲むのが一般的です」。飲む量については人によってそれぞれだが、食事と一緒に飲んでビールやワインのようにお友達と楽しめる。一方、お年寄りの人だと、食後に一杯か二杯くらいを飲むと、夜眠れるようになるという。
薬草酒には何種類かある。ビールやワインのように一般に楽しむ薬草酒もあれば、子供を産んだ女性用の薬草酒(ちょっと飲むと体が温まり、血流をよくさせるという)、関節痛を癒す薬草酒などあるという。薬草酒の作り方にはコツがあり、経験とそれなりの知識がないと簡単には作れないという。ひと昔前はたいてい、代々の口コミで各家庭で薬草酒が作られ、飲む習慣があった。だが、近代的な治療が進んでいるため、都会では子供を産んだ後に薬草酒を飲む女性の姿が減っているのが現状である。
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