(日本語) アンコール見聞録 #24 新型コロナ一年
(日本語) アンコール見聞録 #24 新型コロナ一年
2021.04.28

NyoNyum Magazine にて連載しているコラム「アンコール見聞録」

上智大学アジア人材養成研究センター現地責任者として、シェムリアップでアンコール建築に関する研究を行っている三輪悟さんが、アンコール建築の歴史や、遺跡の周りで営まれる生活、カンボジアにまつわるあれこれを綴ります。

今回は、新型コロナ一年ということで、アンコール遺跡群におけるこの一年を振り返ってみたいと思います。

 

アンコールワットから人が消える

2020年3月末、世界的な新型コロナウイルスの流行を受け、アンコールワットから人の姿が消えた。

外国人旅行者に加えて地元民も姿を消し、アンコールワット内で最も人が多かったのは作業を継続していた西参道の修復現場であった。

2.20 事案により一年後に再び人が消えた

カンボジアにおける新型コロナ陽性者数(2020年1月27日~ 2021年3月18日までの累計)

昨年11月の二度の市中感染事案(11.3、11.28)は大騒ぎしたものの、ほどなく終息した。

一方で本年2 月20日にプノンペンで始まった市中感染(2.20事案)はその後の一か月間で10州 に飛び火し、関連する感染者だけで1,000名を超えるなど劇的に拡大を続けている。

この状況の下、国内移動の自粛により3月上旬アンコールワットは再び静寂に包まれた。

昨年1月から今日まで国内で確認された累積感染者数のグラフを見ると、2.20がこれまでとは異次元の
激増であることが理解できる。

 

コロナ禍と中国人旅行者

月毎の遺跡チケット購入者数と中国人・日本人の内訳(2019 年11月~ 2021年2 月)

※本表と下記のグラフはアンコールエンタープライズが公表する統計資料に基づき筆者が作成した。

2017年以降中国人はカンボジアを訪問する外国人の中でシェア一位の座を占める。またアンコール遺跡チケット購入者数においても、37%(2017年)、43%(2018年)、40%(2019年)、22%(2020年)と圧倒的シェアを占める。

その統計一覧からは多くのことを読み取ることができる。中国人は他の国籍に先駆け2月に激減し、3月にはシェアが4%となった。

3月末カンボジア政府は観光ビザの発行を停止し、4月の中国人遺跡チケット購入者数は最小値となった。

注目すべきは5 月以降の中国人の予想以上に早い回復ぶりである。コロナ自粛の抑圧から解き放たれた感のあるクメール正月代休(8月17~ 21日)を契機に8~ 10月の中国人のシェアは7割近くにまで伸びた。

この間お盆休み(9月16~18日)、水祭り(10月30日~ 11月1日)などがあった。統計詳細を見ると、これらの連休中に購入者が集中する様子がよく分かる。

遺跡チケット購入者総数(青)と中国人数(橙)、日本人数(緑)(2020年4月~2021年2月)

 

2021年の動静とコロナ対策への学び

人の消えたアンコールワット(撮影:2021年3月15日)

年が明けた1月に日本人シェアが7%にわずか伸びたのは初日の出を拝んだ日本人の影響と思われる。

驚くべきは2月の中国人購入者数が2,200名を超え、シェア75% と異常に多いことである。

春節に関連する国内旅行であったと解釈できる。

その他の国籍者で2月に増加する事例は見当たらない。

昨年1月27日に国内における陽性者一人目と確認されたのは春節に合わせて中国武漢から直行便でシハヌークを訪れた中国人であった。

カンボジアには当地に暮らす中国人在住者が少なくても30万人いると言われ各地に中国人街を形成しつつある。

新型コロナの拡大を抑えるためには、1人1人の感染予防対策が重要なことは言うまでもない。

同時に国の政策として、国籍を問わず大勢の人間が移動することを実効性を持つ形で時に厳しく制限する必要がある。

遺跡チケットの販売統計は望外に新型コロナの多様な一面を雄弁に語る。( ※本稿は 3月18日までの資料に基づく)

(この記事は2021年4月に発行されたNyoNuym112号に掲載されたものを再掲しています。文中の情報は当時の情報です。)

 

コラムニスト: 三輪 悟(みわ・さとる)

上智大学アジア人材養成研究センター(シェムリァップ本部)助教
1997年10月よりシェムリアップ在住。専門はアンコール建築学。NyoNyum89号(2017年6月号発行)より遺跡やカンボジア生活にまつわる本コラム『アンコール見聞録』を連載。

 

 

前の記事:

過去の記事

7:死んだカエルと干しガエル
8:アンコールワットの矢ワニ
9:西参道正面北側のナーガ
10:石の穴 あいたり、消えたり
11:遺跡内は犬禁止
12:米価が3倍になる継続性
13:外国人の遺跡入場者数
14:仏人がジャワに学んだ修復手法
15:アンコールワットの睡蓮
16:大阪万博 旧カンボジア館
17:アプサラ機構創設25周年
18:プノンペンオリンピックスタジアム
19:新型コロナとアンコール観光
20:聖山クーレンでのキャンプ体験に想う
21:聖山クーレンでのキャンプ体験に想う(続編)
22:統計に見るウイズ・コロナのアンコール観光
23:スラスラン中央寺院(仮称)の復元・再構築

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