(日本語) NyoNyum106号特集:特集⑤大地の恵みをいただきながら
(日本語) NyoNyum106号特集:特集⑤大地の恵みをいただきながら
2020.04.26

今月発行したNyoNyum106号の特集は、「起こせ!カンボジアの農業革命 ~カンボジア農業の秘めた可能性~」と題して、カンボジアで農業発展のために奮闘している方々を取材しました。

今回は取材を重ねるうちに、どんどん多くの方に伝えたい、知ってもらいたいことがたくさん出て盛りだくさんの内容になりました。

そこでWEB版では誌面では載せきれなかった部分をいくつか追記し、全6回で紹介したいと思います。

今回はカンボジアが抱える問題を解決するために小島幸子さんが手がけた農園を紹介します。

前回の記事はこちら

 

大地の恵みをいただきながら

カンボジア最大の観光地・シェムリアップで農園経営を行う小島幸子さん。

21年前にこの地に渡りツアーガイドとして働くうちに、“本物のカンボジアのお土産”がほぼないことに気づく。

「カンボジア人の手によるカンボジアの材料を使ったカンボジア製のお土産を」。

そうして小島さんが生み出したのが、今やカンボジア土産として定番の「アンコールクッキー」。

現地に雇用を生み出し、13年もの長い年月をかけてカンボジア人スタッフと築き上げてきたアンコールクッキー社のオーナーを退き、今では農園経営に注力している。

マンゴーやバナナ、パイナップルなどの果物に加え、ニンジンやナス、カボチャなどの30品種を超える野菜を作っている。

現地に根を張り生きてきた小島さんの想いとは?

大地とともに生きる選択をした小島さんとその農園に迫る。

 

第1次産業に関わったきっかけ

開墾当時の写真(2016 年)

アンコールクッキー時代、商品の原材料生産地である農村との交流も重ねていた小島さんは、「都市部の経済発展の一方、農村部はこの十数年何も変わっておらず、主要産業であるはずの農業がお金を生み出せる産業になっていない」ことに違和感を抱いたという。

農業だけでは食べていけず、男性や若者が家族を養うために国外に出稼ぎに行き、その結果農業の担い手がさらに減るという負のスパイラルも起こっていた。

カンボジアが誇るべき第1次産業。それなのに問題が山積みだらけの現実を体感し、2014年に自ら農園を運営することを決心する。

 

開 墾

世界遺産アンコールワットから約15分の場所にあるスヴァイチェイク村に、42ヘクタールという広大な土地を確保。「スヴァイチェイク・オーガニックファーム」と名づけた。

電気も水道も通っていない雑木林を開墾するところから始めるが、農業経験がない小島さんは現地の農業コンサルタントに作業を委託することを決めた。

6人1組のチームで、一から農園マップを制作したり、道路整備や苗の植え付けなどの農園全体のマネジメントを指揮してもらった。

開墾予定地の雑木林の中で、屋根しかない掘っ立て小屋にトラクター操縦者1人とコンサルタント1人が、1年間住み込みで働き荒野を開墾してくれた。

 

土壌問題と闘う

カンボジアの土は粘土質で、雨が降るとグチャグチャになり水はけが悪く、乾燥するとカチカチに固まってしまうため、野菜栽培には向いていないとされる。

このため、カンボジアで買える野菜のほとんどがベトナムやタイからの輸入品だという。

そんな農園の土壌を改良するために、鶏と牛の糞やくん炭に、落ち葉を混ぜて堆肥を作った。高湿のカンボジアの気候の中でどうすれば目指す野菜が発芽するのか。

さまざまな環境と場所で実験し、ようやく3年後にこの地域でまだ誰も作っていないニンジンの栽培に成功した。

 

無農薬・無化学肥料のこだわり

人参の栽培に成功した当時の写真

農園の特徴は無農薬・無化学肥料にこだわり運営しているところだ。

それは消費者に安心して食べてもらいたいという想い、そしてカンボジアの大地や環境、生き物へ配慮してのこと。

虫は時として農作物の敵となるが、栽培にとって大切な役割もある。

無農薬・無化学肥料栽培は手間や時間がかかって大変なため、近隣の農家では有機無農薬法を採用している。

どうすれば無農薬・無化学肥料栽培を保っていけるのか。

農園マネージャーのヴン・トンさんを中心に研究の日々だ。

 

マネージャー、トンさんとの出会い

小島さんが全面的に信頼を置いているトンさんは、コンサルタントとしてスヴァイチェイク・オーガニックファーム立ち上げ当初から関わってきた。

彼らのチームとは2年契約と決まっていた。

農業コンサルタントは開墾の手伝いが主な仕事で、最後まで農園を見守り続けることはない。

しかし、立ち上げからずっと見守ってきたトンさんの「自分の植えたものを最後まで見届けてみたい」という言葉に感銘を受け、小島さんは彼に農園マネージャーとして一緒に働かないかと誘った。

それ以来、トンさんが中心となって農園は運営されている。

 

6次産業化にむけて

「地産地消」をコンセプトとしたスヴァイチェイク・オーガニックファームの直営店兼レストランが昨年5月にシェムリアップ市内にオープンした。

直営店をオープンさせることにより、第1次産業から、第2次産業(加工)・第3次産業(サービス業)にも大きく発展することになる。

店では朝採れた新鮮な野菜や果物が販売されていたり、その素材を活かした料理を食べることができる。

この直営店の運営には小島さんはほとんど関わっておらず、カンボジア人に任せて営業している。

一方で、小島さんは新しいプロジェクトとして、マンゴーの大量廃棄問題を改善するために「マンゴースパークリングワイン」の開発を進めたり、現在建設中の農園内のレストランと消費者を直接つなぐデリバリーサービスなどを企画している。

あくまでも、「創設者は広報担当」という位置づけであり、第1、2、3次産業として奮闘するカンボジア人を裏側でサポートするのが自分の役割だと小島さんは話す。

第1次産業+第2次産業+第3次産業 = 6次産業化にもっていくのが大きな夢。

カンボジアに根づき100年、そして1000年続く、後世まで残るような産業にしていくため、今日もカンボジア人たちと一緒に小島さんは奮闘している。

 

収穫できた時の喜び、それが醍醐味

ヴン・トンさん(32)
タケオ州出身。プレックリープ農業大学卒業。以前は、「FMGis.Team」という農業コンサルタントチームに所属。2016年からスヴァイチェイク・オーガニックファームのマネージャーに。今度シェムリァップのビルドブライト大学で農業の授業も受け持つ予定。

農園の切り盛りを任されているトンさん。どんな想いで活動しているのだろうか。本人に話を聞いた。

①ご自身の仕事についてどう考えていますか?

無農薬・無化学肥料栽培はカンボジアの大地や環境、すべての生き物を守ることができるので、誇りに思っています。

②何が一番大変ですか?

初めての無農薬・無化学肥料農園の運営なので、大変なことばかりです。通常の農園に比べて問題が多いですが、何度も考えてチャレンジできるのが楽しいです。特にニンジンは育てたことがなかったので、一から作るのが大変でした。

③喜びを感じるのはどんな時ですか?

問題の多い無農薬・無化学肥料農園でベストな解決策が見つかった時がうれしいです。でも、やっぱり通常の農家のように「収穫できた」時が一番うれしいですね。

 

つづく

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