NyoNyum119号特集:⑥~駆け出し女性建築家~モン・フイリンさん
NyoNyum119号特集:⑥~駆け出し女性建築家~モン・フイリンさん
2022.07.30

現在、カンボジア国内で配布中のカンボジア生活情報誌NyoNyum119号の特集のWeb版です。

 

「変わりゆくクメール女性たち~古来から現代につづくカンボジア女性の姿~

経済発展が進むカンボジアでは、省庁や民間企業での女性の活躍が目立つようになっています。カンボジアの伝統風習では、女性は結婚して妻となり、主婦として料理・洗濯・夫や子供、親の世話をして家を切り盛りするものとされてきました。

しかし現代では、家事に加えて仕事をして収入を得る女性が増えています。主婦の80% が家計に収入をもたらす仕事をしているとする調査結果も。

一方で、古来カンボジアでは社会における女性の地位は高く、それを示す文化・思想も多く残っています。そして今もカンボジア人女性の心の中にしっかり根付いています。

では、カンボジア社会における女性の伝統風習とはどんなものなのでしょう?そして現代において働くカンボジア人女性の環境はどのように進化しているのでしょう?

 

カンボジア女性の職場・役職等の環境は?

男女平等の環境の中で、職場で活躍する女性が多くいる今のカンボジア。ひと昔前(~ 2005 年あたりまで)は、一般家庭では娘には門限を課したり、女性は男性のように夜遅い時間まではもちろんのこと、実家から遠いところへ出勤や出張をしたりすることは滅多に許されていませんでした。

しかし現在ではジェンダー平等が重視され、男女問わず大学に進学して高学歴を目指したり、各界でさまざまな職種に就いて働く若い女性が目立つようになっています。彼女たちはどんな思いを持っているのでしょうか。各分野で活躍する女性たちの思いを聞いてみました。

 

駆け出し女性建築家

モン・フイリンさん (26)

“夢を諦めず、プラス思考で挑戦しよう!” がスローガンのモン・フイリンさん(26)は、幼い頃から絵を描くのとクリエイティブな作業が大好きな女性。建築家である父親のすすめで高校卒業後の2015 年にノートン大学建築専攻に入学。大学で建築を学びながらプノンペン王立大学で日本語学科に所属していたフイリンさんですが、約1 年前から念願の建築関係の仕事を始めたそう。男性中心の職業を選択したときの思い、そして現場で働いてみた感想を聞いてみました。

ノートン大学での卒業論文発表の様子(2019年)

建築の世界に足を踏み入れたときのことを尋ねると、フイリンさんは「男のような仕事をしたいの!?」と批判された思い出を語ってくれた。「大学でこの分野を専攻したことに、近所の人や親戚が反対してきました。この仕事は疲れるし、早く老ける。女が建設現場にいたって誰も指示を聞いてくれるわけがない、なんて言われました」。

だが父親の後押しもあり、卒業まで建築の勉強自体は問題なく行うことができた。とはいえ、他の専攻と異なり、建築を学ぶ女子学生の数はとても少ない。なぜなら、座学よりも実技が多く、現場で実際に力を使うので怪我をしたり、時には入院なんてこともあるからだ。

また、コンピュータを自由に使いこなす必要もある。修学中に、フイリンさんは1年間にわたり論文を書くためにある教授のもとで学んだ。そこでは、歩道橋の設置など、行政の建築プロジェクトにもかかわることができたという。

A.S Architect チームが2021年にデザインした学生ハウス

さまざまな経験を積んで、卒業後は父親の会社に入り、家屋や工場建屋などの入札部門で働きながら、同期の友人4人で小さな「A.S Architect」という会社を発足した。家屋のデザイン・コンサルティング業務を行うそうだ。「最初の仕事はキエンスヴァイのリゾートの建築設計、次に子供や貧困者、地方から出てきた学生が住む施設の建築デザインの仕事をいただきました。これらの実務を通じて、社会発展に貢献する建築の価値というものを実感しました」とフイリンさん。

一方、「やはり現場に出るといろんな困難に直面します。特に女性に対する差別が多いです。仕事の打ち合わせでは、若い娘に何ができる、男のような良い仕事ができるわけがないと決めつけて、私と直接会いたがらないお客様もいます。現場でも、女性はすぐに疲れるからと、高いところに上らせてくれないこともありました」と苦い経験を語る。でも、フイリンさんは差別的な言動にも負けず、これまで現場での仕事をこなしてきた。

2017年、フイリンさんはある交換留学のプログラムで、日本で1年間日本語教育の大学に通うチャンスを得た。東京の先進的な建築デザインを目の当たりにしたフイリンさんは、特に日本庭園のデザインに興味を持ったという。現在は父親の会社やA.S Architect のマネジメントの仕事で多忙となってしまっているが、将来は再び日本で建築の勉強をしたいという思いを抱いている。

日本留学中、東京ディズニーシーを訪れたフイリンさん( 左、2017年)

「建築は、カンボジア社会を開発するのにとても役立つ仕事だと思います。特に日本の都市部の公園づくりに興味があります。日本の都市開発は、歩道があり、公園があり、快適な空間が広がっています。私は将来、カンボジアの公園づくりを日本のそれと同じように、近代的でありながらカンボジア国民の心のよりどころとなるようなデザインで作り上げたいんです」

フイリンさんが建築を通じて国家・社会の開発に貢献したいという思いを強めたもう一つのエピソードがある。ノートン大学の4年生の時、フイリンさんと同級生で観光省が主催するケップ州での「海岸沿いの屋台デザインコンテスト」に応募して優勝をした経験がある。カンボジアの海岸地域での観光客を魅了するデザインが認められたのだ。この経験から、さらに建築の価値を深く理解したというフイリンさん。

ケップ州の海岸沿い屋台デザインコンテストで作品説明をするフイリンさん(2019年末)

さらに今後後輩の建築家の卵たちも、カンボジアの建築分野に近代化をもたらすと期待している。「学
生たちの中には、私たちA.S Architect などの小規模な建築会社と協力して、ブラウンカフェやプノンペンの飲食店などのデザインを行っている子もいます」

女性の社会進出についてフイリンさんは、どのような状況であっても自分の夢を持ち続けること、これが女性がプロとして仕事をするうえで重要なことだと思っている。「現代のカンボジア社会は、女性がさまざまな仕事に就くことに大きく門を開いています。だからどうか、夢を捨てないでほしいです。都市部の親世代や社会全体の女性に対する理解は高まっていると思います」。

カンボジア人女性の一人として、全女性のモチベーションを高めたい。女性たちが差別されたり低い地位に置かれていたとしても、自分の夢を捨てずにポジティブ思考でその夢を追いかけ、自身の作品や成功をした姿で女性も男性と同じようにできるんだということを世の中に示せればいい。そう熱く語った。

2019年から2020年にかけて作ったネァックルーン市の西部経済開発衛星都市の作品の展示

 

A.S Architect について

フイリンさんと4人の友人が作った建築家グループ。お客様に快適で近代的な家屋デザインを提供する。

A.S Architect
TEL:069-633-376
住所:#11, St.008, Chakongrekrom, Mean Chey District, Phnom Penh

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

関連記事

ベジタリアンフードで健康を大事にする都民とは?

2024.11.08 特集記事生活情報誌ニョニュム読み物

エアロビクスによるグループ活動の文化とは?

2024.11.01 特集記事生活情報誌ニョニュム読み物

身体を鍛えるジムが大人気?

2024.10.25 特集記事生活情報誌ニョニュム読み物

現代プノンペン都民は健康志向?

2024.10.18 特集記事生活情報誌ニョニュム読み物

教師の職について現役の先生が語る

2024.09.13 特集記事生活情報誌ニョニュム読み物

親から見た教師のキャリアとは?

2024.08.30 特集記事生活情報誌ニョニュム読み物

教員養成学校の学生、思いを語る

2024.08.23 特集記事生活情報誌ニョニュム読み物

教師になるためにはどうしたらいい?

2024.08.16 特集記事生活情報誌ニョニュム読み物

クメール人が語る「憧れの教師」とは?

2024.08.09 特集記事生活情報誌ニョニュム読み物

プノンペン都民が今求める公共サービスの現状とは?

2024.07.12 特集記事生活情報誌ニョニュム読み物

クメール人の大学生が求めることは?

2024.07.05 特集記事生活情報誌ニョニュム読み物

30-40代が現役しているクメールの社会人の求める幸福感とは?

2024.06.28 特集記事生活情報誌ニョニュム読み物

内戦時代を生き抜いてきた人々が求める幸せとは?

2024.06.21 特集記事生活情報誌ニョニュム読み物

2019年の最新の国勢調査データの紹介

2024.06.14 特集記事生活情報誌ニョニュム読み物

カンボジア生活情報誌「NyoNyum131号」発行のお知らせ!

2024.06.07 特集記事生活情報誌ニョニュム読み物

今年のクメール正月を思う市民の感想

2024.05.17 特集記事生活情報誌ニョニュム読み物

ニョニュムスタッフのクメール正月の過ごし方

2024.05.10 ニョニュムスタッフ現地レポート特集記事生活情報誌ニョニュム読み物

寺の存在とクメール正月とは?

2024.05.03 特集記事生活情報誌ニョニュム読み物

クメール正月の準備とあれこれ!

2024.04.26 特集記事生活情報誌ニョニュム読み物

伝説とクメール正月

2024.04.19 特集記事生活情報誌ニョニュム読み物

カンボジア生活情報誌「NyoNyum130号」発行のお知らせ!

2024.04.12 特集記事生活情報誌ニョニュム

クメールの民間治療のあれこれ!

2024.03.22 特集記事生活情報誌ニョニュム

クル・クメール協会の会長インタビュー

2024.03.08 特集記事生活情報誌ニョニュム

薬草の商売とは?

2024.03.01 特集記事生活情報誌ニョニュム

クメール薬草採取の仕事とは?

2024.02.23 特集記事生活情報誌ニョニュム

薬草対象のクメール植物って?

2024.02.16 特集記事生活情報誌ニョニュム

カンボジア生活情報誌「NyoNyum129号」発行のお知らせ!

2024.02.09 特集記事生活情報誌ニョニュム

灯篭飾りの意味解説

2024.01.24 特集記事生活情報誌ニョニュム

水祭りのあれこれの写真集

2024.01.15 特集記事生活情報誌ニョニュム

水祭りに集まるクメール庶民の思い

2024.01.08 特集記事生活情報誌ニョニュム

試合に出るカヌー団への支援ってどのようなものある?

2024.01.01 特集記事生活情報誌ニョニュム

レースのあれこれ

2023.12.25 特集記事生活情報誌ニョニュム

水祭りの由来とは?

2023.12.21 特集記事生活情報誌ニョニュム

カンボジア生活情報誌「NyoNyum128号」配信のお知らせ!

2023.12.20 特集記事生活情報誌ニョニュム

NyoNyum127号特集②:ニョニュム的カンボジア時事録2003~2023

2023.11.28 フリーペーパー出版特集記事生活情報誌ニョニュム

NyoNyum126号特集⑥:プノンペン周辺地域の魅力を解明!

2023.10.10 不動産不動産(生活)特集記事

NyoNyum126号特集④:プノンペンの各地域で進むボレイ開発

2023.10.08 不動産不動産(生活)特集記事

NyoNyum126号特集①:プノンペンの土地価格は?

2023.10.02 不動産不動産(生活)特集記事

NyoNyum124号特集①:カンボジアSEA Games2023のあれこれ!

2023.04.20 カンポットケップシアヌークビルシェムリアップスポーツプノンペン特集記事

NyoNyum120号特集:⑥コロナ禍で頑張る現地企業

2022.10.06 シェムリアップ特集記事

NyoNyum117号特集:⑥若者に環境問題を考える意識と行動を広げたい

2022.04.01 プノンペン清掃・ビル管理(生活)特集記事

NyoNyum117号特集:④ごみのリサイクルで活躍する人たち

2022.03.30 プノンペン清掃・ビル管理(生活)特集記事

NyoNyum117号特集:③ごみ回収企業と料金支払い方法について

2022.03.29 プノンペン清掃・ビル管理(生活)特集記事

NyoNyum117号特集:②エッチャイの仕事とは?

2022.03.27 プノンペン清掃・ビル管理(ビジネス)特集記事

NyoNyum116号特集:①v キリロムパインリゾート

2022.01.24 コンポンスプー特集記事

NyoNyum114号特集:②公的料金をキャッシュレスで

2021.09.30 ショッピング(生活)特集記事

(日本語) NyoNyum111号特集:⑥作り方とおすすめレストラン

2021.03.06 カンボジア料理グルメ(生活)プノンペンレシピ(生活)文化特集記事

(日本語) NyoNyum111号特集:⑤食材以上の価値を秘めたプラホック

2021.03.05 カンボジア料理レシピ(生活)文化特集記事

(日本語) NyoNyum111号特集:④プラホックがなければクメール料理は語れない

2021.03.04 インタビュー(ビジネス)カンボジア料理グルメ(生活)プノンペン特集記事

(日本語) NyoNyum110号特集:⑥新しいものを見つける

2020.12.30 おみやげ(観光)グルメ(観光)シェムリアップショッピング(観光)特集記事

(日本語) NyoNyum110号特集:⑤いつもとは違うホテルに

2020.12.30 シェムリアップホテル(観光)特集記事

おすすめ記事

アンコール見聞録 #38 遺跡を上から見る

2023.09.12 アンコール見聞録シェムリアップ文化

アンコール見聞録 #34 遺跡写真館

2023.01.12 アンコール見聞録シェムリアップ

アンコール見聞録 #29 変わるもの、変わらないもの

2022.03.04 アンコール見聞録シェムリアップ

【旅育!!ノマド家族。】⑯プノンペン市内でも旅育!

2022.01.05 【旅育!!ノマド家族】プノンペン

アンコール見聞録 #25 紙幣の図柄をよく見ると

2021.07.08 アンコール見聞録シェムリアップ

(日本語) NyoNyum111号特集:⑤食材以上の価値を秘めたプラホック

2021.03.05 カンボジア料理レシピ(生活)文化特集記事